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□残酷なひと。
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お妙さんに今日も会いに行ったから始まり、美人だ、とか優しい、とか(あれだけ撃退されておいてどうしてそういう台詞が出るのか不思議だ)さんざ褒めちぎった後、ふと近藤さんはまじめな顔をして、

「総悟は誰か好きな人はいるのか?」

そう来ましたかぃ。

思わず傾けていたコップがゆれて、喉に流入したビールにむせかける。

恋はいいぞ、素晴らしいぞと力説されなくてもあんた見てりゃわかりまさぁ。
素晴らしい恋なのかは首傾げたくなる現状だけれど、毎日土方さんに渋い顔されて、両手を合わせて拝み倒しながら屯所を抜け出す近藤さんの姿は素敵でもなんでもないけれど、本人はこれ以上なく幸せそうな顔をしている。傍目から見てどれだけ望みのない恋だって、この人にとっちゃ関係ないんだ。

どれだけ撃退されたって生き生きとした顔で会いに行く姿を見ていると、誰だって応援したくなってしまう。勿論土方さんだって、応援せざるをなくなってしまうんだ。

―――この人の笑顔は反則だから。

「…………」
「おっ、いるのかその顔は!?」

黙ってはぐらかそうと思っていたらそういうことにされた。
普通の顔してるよなぁ、と顔を撫でてみるが鏡が手元にないので確認できない。俺もこの人もかなりの量を飲んでいるから、顔が崩れたかもしれないし、この人が思い込んだのかもしれない。それでも一瞬心のうちでも覗き込まれたかとひやりとした。

ちらりと近藤さんの背後に目を遣る。こちらに背を向けた土方さんの顔は見えないけれど、呼吸は大分穏やかになっていた。アルコールの高揚をなんと抜け出せたようだった。

―――聞かれることはない。

口を開く気になったのはきっとアルコールのせいだ。

「俺だって恋くらいしまさぁ」
「どんな人だ?美人か?」
「色は白いですねぃ…目元はすっと通って切れ長で。いつも煙草は手放しませんねぃ。でもってバイオレンスでさ。口よりも先に手が出るんですぜ」

流石に瞳孔のことは一発でばれるから言わないで置いたけれど、土方さんを知っている人が聞いたならすぐに分かるだろう。それだというのに近藤さんは、やおら難しい顔をして唸りだしたと思ったら、

「お妙さん!それまんまお妙さんだよ!!」

バイオレンスは愛ゆえだけどな!とか言っていきなり着物の袖を抜く。お妙さんは煙草吸わないでしょうに。見せられた上半身には擦り傷だとか打撲痕がところ狭しと付いていて、それでも愛の傷だと誇らしげにいえることの人を呆れ半分見直した。はまってますねぇと心の中で呟いて、この人に恋をしている土方さんに心の底から同情する。女に付けられた傷の、自分では届かないところを手伝ってやっている土方さんの顔を思い出そうとしたけれどどうしても思い出せなかった。
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