+++オフィシャル+++

□晴れすぎた日
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めずらしいものを見たと思った。



+++晴れすぎた日+++



その日はとてもよく晴れた日だった。雲ひとつない空と言う物を山崎は久しぶりに見た。

普段空を往来している銀色の腹をした天人の船もたまたまだろうか、視界には無い。山崎はその銀色をした船の腹を、水中から見上げた魚の群れの擬態のようだと思っていたので、突き抜けそうな空に見惚れるのと同時に少しだけ寂しくなった。

天人は好きではないけれど、大地の上にあって海の中にあるような感覚が、土方に言ったら眉をひそめられそうだけれど少しだけ好きだったのだ。

夏の鋭い日差しが縁側の温度を上げている。南側を向いた廊下にはところどころ簾が下げられて床に縞模様を描いている。簾に絡みつくように日に日に高さを増していく朝顔は、日中はしなだれて鮮やかな紅と藍の輪をしぼませている。

蝉の声が聞こえる―――夏だ。
どこから見ても。

いい加減に空を見上げる目が痛くなって山崎はようやく顔を進行方向に戻した。腕に抱えられているのは先刻書き上げた書類の束である。上司三人のうち二人は全くといってよいほど仕事をしないので、残った一人のとばっちりを要領の悪い山崎は引き受けている。
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