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□晴れすぎた日
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それでもその量はひどいものではない。

ひどいことになっているのは三人分の仕事を一人でこなしている残りの一人、つまり土方の机の上であって、元来事務処理が得意とも思えない彼はいつの間にか処理速度を格段に進化させていた。させなくてはならなかった、というのが正しいところなのだが。
「副長、頼まれた書類もって来ましたよ」

何時もそう山崎は土方の私室に這入るときに声をかける。人一倍気配に敏感な土方は、無断で障子を開けようものならすかさず刀の切っ先を向けてくるのだ。その程度のことは日課のようになっている山崎であるが、常日頃の半ばパフォーマンス的なそれとは本気の度合いが違うので流石に勘弁してもらいたい。

昔沖田隊長にでも寝込みを襲われたのかな、と思いながらいつものようにかけようとした声は、喉で止まって形にならなかった。

普段は閉まっている障子が半分、開いている。

それだけならこの暑気である。流石に換気を良くしないと副長でもきつかったか、その程度の感想である。

山崎が足を止めたのは、その開いた障子から、だらりと力の抜けた腕が伸びていたからだった。

「ふ、ふふ副長っ!?」

沖田隊長に襲われたんですか、とどもりながら書類を投げ出して駆け寄った山崎は、そして冒頭の感想にたどり着くのである。

―――数分後、日課の土方弄りのために土方の私室を訪れた沖田が見たのは、何故か山崎の膝の上で熟睡している土方の姿であった。

黒い隊服の上に劣らず黒い髪が散らばっている。簾からこぼれてくる細かい光を反射してちらちらと髪が光沢を瞬かせる。少し硬い髪質は撫でると手のひらが少しくすぐったいだろう。今にも耳かきが出てきそうな、そんな恋人同士か新婚夫婦のような風景に、表情筋ひとつ動かさず沖田はどこからともなく携帯式バズーカを取り出した。

「わー!沖田隊長屯所の中でそんなもの構えないでくださいっ」
「うるせいやい。大声出すんじゃねぇ、土方さんが起きちまうだろい」

もっとすごい音立てようとしてる人間が何言っているんですか。そう思わず突っ込みそうになった山崎だったが、命が惜しいので止めておいた。
しぶしぶバズーカを肩から下ろした沖田が足音をしのんで近づいてくるというのに身動きも取れない。土方の頭を放ればあるいは逃げ切れるかもしれないが、拍子で土方が起きてしまっては恥ずかしいやら恐ろしいやら、我慢した足の痺れが無駄になるやらで目も当てられない。
それに何より勿体無さ過ぎた。だって気配に人一倍敏感なあの副長が、自分は兎も角あの沖田隊長が至近距離で顔を覗き込んでいるというのにまつげひとつ動かさないのである!!だからこそ沖田は口惜しいのだろう。何時もは滅多に動かさない表情を忌々しそうにゆがめて、

「山崎の癖に抜け駆けしやがって」

寄越せ、というように伸ばされた手に山崎はあわてて首を振る。少しでも動かすのが怖い。膝に乗せるときだって細心の注意を必要としたのだ。テロリストの根城に突入する時だってこれほど緊張はするまいと思うほどだった。
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