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□事件の夜。
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風が止んでずいぶん経つ。

軒先にくくりつけられた風鈴の音が止んで分かった。すこしいけばそこそこに通行量の多い道路があるはずなのだが、如何せん時間が時間なので車も人も通らない。
屯所の中にも隊士がいるはずなのだけれど、半分は未だ道場で寝込んでいるし、幹部の部屋は襲撃に備えて奥の方にあるのでやはり人の気配もしない。

ひどく静かな夜だと思った。こういう夜は余計に寝つきが悪くなる。


+++事件の夜。+++


ひと騒動が終わってやっと床につけることになった。

あの下手人の天人は一晩屯所の一室に拘束して、明朝尋問することにした。直ぐにでもいろいろ聞き出してやりたかったが銀時に投げ飛ばされて気絶してしまっているのでそうもいかない。

自身、体力的にはまだ余裕があったがばたばたした一日の精神的疲労がたまっていたのだろう。密室に天人を放り込んだ後はさっさと着替えて床を敷いた。銀時たちは明日の尋問に一応立ち会ってもらうことになっている。正直要らないのではないかと土方はおもったが、状況説明が自分はともかく沖田では難があった。

彼らには空いた一室と適当に着替えを渡して、後は知らない。
明日食事くらいは供することになるだろうと思うと少しげんなりした。朝からあのわけの分からない連中と朝餉で顔を付き合わせるかと思うと胃の辺りが痛い土方だ。いっそ山崎に自室まで運ばせようかと思った瞬間、すぅと空気の質が変わった。

室内のこもった空気が薄れ、すこし気温が低くなる。反射的に瞑っていた瞼を開けたが暗闇に慣れていない視界はうまく効かない。
ただ気配がゆるゆると近づいてくるのはわかった。土方の横になっている布団をめがけ、ゆっくりと距離を詰めてくる。じわりと知らないうちに手の内側に嫌な汗が滲んでいた。ゆっくりと唾を飲む。音を立てないように。緊張しているのが分かっているのかいないのか、相手の動きは慎重だ。まだ視界は効かない。相手が動くたびに空気がするすると動いて背筋を悪寒が走っていく。

刀は枕元だ。

跳ね起きて掴めば間に合う。

だが鯉口をきるよりも相手は早く動くだろう。そういう予感があった。
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