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□事件の夜。
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手が伸びてくる。

相手は思ったよりもずっと近くまで寄っていたようだった。薄い掛け布団の中に入ってくる。土方は思わず背筋をこわばらせた。

平常を保て。

意地のように震えそうになる手に叱責する。相手に気がつかれないように、薄く開けた視界がようやく開けてきた。

相手は這入って来た障子を開け放しにしている。誰だ。いや、人なのか。

ふと、自分のものでない肉の感触がかちこちに握り締められた手に触れた。一度確かめるように手首に触れて、そして指を辿ってくる。やたら丁寧な動作だった。
静まれと命令するにもかかわらず勝手に鼓動を早める心臓が憎らしい。それを気にかけるよりも、触れられた手に感覚が集中する。手がそのまま神経の塊になってしまったようだった。

すこしひんやりとした、大きな手。

誰だ。瞑りそうになる目を必死でこじ開けた丁度その瞬間雲の切れ間を縫って月が覗いた。白々とした光がちらりと銀色を映し出しす。


―――銀色。


「っ、テメエ何してやがるっ!!」

認識した瞬間、ものすごい勢いで土方は傍らに座った銀時に掴みかかっていた。
闇にようやく慣れた視界の中で、銀時があれやっぱり多串君起きてたんだ水臭いじゃんとあのへらりとした顔で言うものだから息まで詰めて構えた自分が馬鹿らしくなる。

何しにきやがった、ともう一度吼えると、へらりとした顔がまあ落ち着けや、と浴衣の襟を掴んだ土方の手をぽんと叩いてくる。
これ以上沸騰すると血管がぶちきれるかもしれないという自覚があったものだから、突き放すようにして土方は銀時を解放した。

相変わらず乱暴だ、口を尖らせる仕種にげんなりする。こいつは本当に成人しているのだろうか。

「で、何をしにきやがった」
「多串君がそれから手を離したら言うよ。」

猫が威嚇するように銀時から距離を取った土方の手の中には枕元に置かれていた刀がすでに抜き身で、銀時の髪の比ではなくてらりと月光を反射して鋭く輝いている。冷や汗をたらさずにはいられない状態で形だけかもしれないが平常を保っているあたり、銀時の胆力が窺い知れて土方は忌々しそうに鼻を鳴らした。

「ちょっとふざけたら切りかかってくるつもりだろ」
「たりめーだ。なんでこんな時間に叩き起こされた挙句にテメエのくだらねぇ冗談聞かされなきゃならねぇ」
「いいのかなぁ、折角俺は多串君を心配してやってんのに」
「―――なんだと」

反射的に手のひらに力が加わったのを見て、銀時はほらね、と言って目を眇めてみせた。こめかみに浮き出そうになった血管を必死で土方は押しとどめた。ここで怒鳴っては話が進まない。

「…なんで、俺を心配する」
「あんだけビビった後の独り寝だろ?寝つけてないんじゃないかと思って」

ほら、枕持参と誇示した蕎麦殻枕を叩き切ってやりたいと思った。
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