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□事件の夜。
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「いらねぇから帰れ」
「遠慮しなくてもいいって。ほら、この屋敷まだ変な気配するし」
「そりゃお前らの気配だろうよ……って、お前もしかして……」

思考が引っかかって目を眇める。会えば必ず口論になるような(その大半は自分が突っかかるせいだということは分かっているが)男なのだ。まかり間違っても土方のために、と添い寝をしにくるような人間ではない。

ということは。

不快に歪んでいた口元が吊り上げられる。

「お前、もしかして怖いとかいうつもりじゃねぇだ……」

ろうな、と続けようとした喉は固まって動かない。それは眼前にいる銀時もおなじで、ぱくちりと大きく口をあけて間抜け顔を晒している。少し着崩れた土方の着ている浴衣の肩。生白い手がぺたりと無造作に置かれている


血液が音を立てて引いていくのが聞こえたような気がした。悲鳴をあげてやろうかと思った。ただ本当に怖いときは、声が出ないものなのだと土方はどこか遠い次元でそんなことを考えていた。

頭の中が真っ白になって、次の瞬間拳を繰り出している。それはもはや真選組という特殊な場所にいるために身についた習性のようなものだ。

ひゅ、と細い音に続いてごつん、といい音がした。

なんだ、ごつんって。

幽霊にパンチってあたるものなのか。混乱している土方と、未だ呆然としている銀時の前で畳の上に転がった白いものはむくりと顔を上げ―――。

「乱暴者なのは知ってやしたけどねぃ、これはねぇんじゃないですかぃ」

あれあんた多串君とこの子じゃん、と銀髪がどこか安堵に聞こえる息をついたことももう聞こえない。もはや怒鳴りとばす力も残っていなかった。

「……で」
「なんですかぃ、今にも死にそうな顔しちまって」
「お前のせいだこの大馬鹿ヤロウ……で」
「はい?」
「何しに来たって聞いてんだよ」

にっこりと外見だけなら天使の笑顔を浮かべて沖田が取り出したものを見てげんなりと土方は眉をひそめる。蕎麦殻枕!!

「なんでテメエら揃いも揃って俺ンところ来んだよ……」
「おや旦那もですかぃ。俺は最初近藤さんのところ行ったんですけどねぃ。意識無い人間じゃいざというとき身代わりにするにしろイキが良くないかなと……」
「いざというときってなんだ!つーかテメェ近藤さんを身代わりにする気かぁ!!!」
「だから断念しましたって言ってるでしょう。全く人の言うことを聞かないお人だなぁ」
「いつもこんなでしょ、多串君。血圧高いんじゃねーの」
「全くでさァ。今から来年の健康診断が楽しみで楽しみで」
「……蹴りだすぞお前ら」

失礼な会話を繰り広げる二人を追い捨て、土方は眉根を寄せると大きく溜息をついて、騒いだせいでぐちゃぐちゃに乱れてしまった掛け布団を捲るとさっさと中に入り込んでしまう。

言っても無駄だということは何度も教訓のように騒動のたびに思い出すのだが、それでも律儀に突っ込んでしまうあたり、自分の性情はもうどうしようもないのだろうと土方は忌々しくも思っている。

けれど今日は、これ以上騒ぐだけの体力も気力も残っていなかったので、

「布団は押入れから勝手に敷け。暑いからあんまりくっつくんじゃねぇぞ」

ごろりと拗ねるように寝返りを打って枕に顔を押し付けると上から二人分、くぐもった笑い声が聞こえた。
いや、くぐもっているのは枕に押し付けているからか。いい加減に睡魔がのしかかってきて頭が揺れる。
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