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□My life with cat
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縁の下の缶の中身を盛った小皿を置いてやると猫は一瞬俺を見上げた。
金色の目。
瞳孔が細まっている。
そのままひとつ、なァんと声をあげて黒猫は小皿に顔をつけた。

「いただきます…ですかぃ?」
「さぁ、どうだろうな」

 肩をすくめてキッチンに戻る。今日はもう一人分の食事を作らなくてはならない。

普段この家にはあまり来客は無い。

住所を知っているのは局内でも近藤さんと山崎、それとこの沖田くらいのものだろう。山崎は緊急招集のときに直接迎えに来ることがある。電話も一応あるのだが心配のようだった。あまり他文明の利器は信用されていない。

 もともと勤務があるときは屯所内で寝起きしている俺が貸し家を借りたのはちょっとした息抜きと気まぐれのようなものだ。
屯所は嫌いなわけではないが、時折無性に一人になりたくなるときがある。大半は我慢しているが、どうしようもないときは深夜でもここに来ている。あまり屯所から離れすぎてもいないから、緊急時の連絡に支障もない。本当にちょっとした隠れ家のつもりだ。人に知られた時点で隠れ家というのかは分からないが。

総悟は、実を言うとよく来る。非番のときなんてあまり頻繁にあるわけでもないから来訪は実に高確率なのだが。
ひょい、と現れては「メシ作ってくだせぇ」なんて馬鹿なことをぬかす。本当にいつ現れるか分からないから、このごろは余程仕事が立て込んでいないとき以外はここに帰るようになってしまった。居ないときに上がられて何か仕掛けられても困る。純日本建築家屋に密閉性もセキュリティもあるはずがないのだ。

だが帰る頻度が増すにつれて沖田が訪れる頻度も上がっているときた。結局アイツにハメられたような気がしてならない。

「総悟テメェ、メシ作れっつーなら材料くらい持って来いっつて言ってるだろ、いつも」
「ああ、すいやせん。コンビニにゃあまともなもんが置いてなかったんでさぁ」
「きっちり菓子類買い込んで来てるやつが言うんじゃねぇよ。そういう時はスーパー行けよ」
「人の荷物勝手に探らねぇでください。全くプライバシーって言葉があんたの辞書にはないんですかぃ」
「俺はお前の辞書に常識って言葉を書き込んでやりてぇよ…」
 
咥えた煙草のフィルターを噛み潰しながら冷蔵庫を探る。このところ使う頻度も増えた。前はビールとツマミくらいしか入ってなかったってのに。
 
「面倒くさいからパスタでいいな。ミートソースの」
「マヨネーズ入れなきゃなんでもいいでさぁ」
「…他人のメシにまでいれやしねぇよ」

 手早くトマトを刻んでいく。挽肉は解凍しておいて、タマネギをみじん切りして炒めた後中へ。酸味が飛ぶからあまりトマトは煮立てない。多少は煮詰める事になるが。
ソースを作るのにそんなに手間はかからない。後は面の茹で具合に注意するだけだ。付け合せのサラダを用意しようと再び冷蔵庫に手をかけたとき、背後で総悟が声を上げた。
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