+++オフィシャル+++
□許容範囲を超えたら
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…本当に言ってやりたかったのは、
「知りたくねぇよ、そんなもん」
だったのだ。
言葉にしたら全部終わりになってしまいそうでいろんな感情を押しつぶして小さな箱の中に閉じ込めて鍵をかけた。
幾重にも鎖で巻いていくつもの鍵をつけた。
今も、増えている。
押しつぶすものも、かける鍵も。
「……知りたくねぇんだよ」
覗き込んだ近藤さんの顔は、あざと畳の目と涙の跡が同居していておかしい。
「折角の男前が台無しじゃねぇか」
笑ってみたら泣いた後のような枯れた声が出て驚いた。
なんで俺は日常茶飯事のことでこんなにダメージを受けているのだろう。まったくもって不思議だ。だって、ここで十分なはずなのだ。
隣を歩ければこれ以上素晴らしいことはないと思っていたのはいつまでだっただろう。
人間はひとつを得ると、いくつも要求するようになって困る。
上へ上へ。
どこまで求めたら留まるのだろうか。欲深くて、嫌になる。
「…どうして気がつかねぇのかなぁ」
いっそお妙さんとやらが近藤さんの長所に気づいて、お付き合いでもしてくれれば諦めもつくだろうか。思ってから首を振った。そんなこと絶対にありえない。
「俺ァ我儘だからよ」
―――『俺達』が一番出ないと困る。
……叶わないと知っているけれど、本当は俺が一番であって欲しいけれど。言えないから「俺達」ということにして形を整えた。