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□許容範囲を超えたら
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女のことはとやかく言わない。
近藤さんは立派な成人男性だ。行動に多々問題があるとしても。俺は近藤さんの母親でもない。
だがそれが高じて、真選組のことを忘れてもらっては困るのだ。もちろんそんなことは無いと信じているけれど。近藤さんは自分たちの道標なのだから。
振られてしまえばいい。
あんたの帰ってくるところはここなんだから。
そんな女のところでうつつを抜かしてんじゃねェよ。
そう思う。
けれど同時に、少しだけ上手く行って欲しいとも思う。
そうすればいい加減にこの可笑しな方向性を持った感情にもけりがつけられるだろうし、本当に純粋なひとだから、傷つかせたくない。
相反する感情がぐるんぐるん渦巻いてしまって、気持ちが悪いったらない。何より自分の存在が。
「本当に、どうして……」
気が付かないんだろう。
同じ言葉で違うことを思う。俺は決して隠し事が得手ではない。直情的な性質も関係しているんだろう。
とっくに沖田にはバレている。銀髪にも知られているような気がする。おかげでこのごろ肩身が狭い。
(何か言いたそうな顔すんな)
「―――自分でちゃんと分ってんだよ。」
声に出して呟いてみたら、涙が出た。
知られたら死んでしまうだろうと思う。
叶わない願いをずっと抱えて生きてきた。
これからも生きていける自信はないけれどもうこの場所を手放せないから、抱えたまま生きていくしかないのだろう。
他人に嘘をついて、自分にも嘘をついて、それで思慕ということにした。親や家族に向けるものに似た、尊敬する人に対する思慕という形にした。取り繕った。
純粋に慕っているだけだ。あこがれの対象として。そういうことにした。
それなのに、厳重に括って鍵をかけて沈めたはずなのに未だ小さな箱は隙を見つけて浮き上がろうともがいている。
ずっとずっと前から蓄えられてきたゲージはそろそろ許容範囲を通り越してしまいそうだ。
よほど深く眠っているのだろう、肩を揺さぶったけれど身じろぎもしなかった。軽い悪戯心が起きて鼻をつまんでみたけれど少し首を振っただけだった。
今ならきっと殺せるだろう。でも叶わない願いの代償に心中なんて愚かなことも出来ない。
知られたら死んでしまう。
でも知られなくても死んでしまう。
どうしたらいいのか分からない。きっとどこにも答えなんて無いのだろう。勝手にぐつぐつ煮立って、少しずつ死んでいく。煮立って、崩れて、最後には腐って死んでいく。壊死していく。
「……俺にはお似合いかよ」
息が掛かる距離だというのに目も開けない。気配も絶っていないのに。水分を含んでぽってりと腫れた唇をつついてみる。あまりにも気持ちよさそうに寝ているから。
「…あんたが好きだよ」
呟いて、頭を落とした。