+++オフィシャル+++

□退化症状
1ページ/3ページ

印象が良い男ではなかった。

ターミナル爆破を企てるテロリストの一味。
後にそれは間違いであったと分かったのだが、それでも土方の中で坂田銀時の印象は好転することはなかった。
善良な一般市民がどうやってテロリズムに、あんな形で巻き込まれることがあろう。その後の再会も悪印象に拍車をかけただけだった。

全く気分が悪い。

そう呟いて箪笥の一番下の段に手をかける。引き出そうとした手は一瞬戸惑った。

+++退化症状+++

再会したときに刀を折られた。

仕掛けたのは自分であったので、仕方の無いことなのかもしれないが、言葉に出来ない非常に抽象的な感覚だけが残った。
未練だったのかもしれない。いくつもの騒動を潜り抜けてきた刀だった。

さして力もかけずに開いた箪笥には白い布が敷き詰めてあった。滑らかな表面が盛り上がっている。布の端をそっとめくると、銀色が瞬いた。

折られた刀はこうしてしまってある。鍛えなおしてもらう事もできたがそうはしなかった。

あの時自分は本気だった、と思う。

思う、などと歯切れのわるい形になっているのは、あの一瞬、折られた瞬間が鮮やか過ぎて他のすべてが色あせてしまっているからだ。

あの瞬間に焼きついた銀色。
ぱきりと折れた刀の傷口。
転がった切っ先が立てる硬質な音。

苛立たしいが鮮明すぎて忘れることも笑い飛ばすこともできない。肩を抑えながらいまだ凶器といえる刃の前にさらされた背中に、柄にかけた手が震えた。

引き剥がすように刀をはずした手のひらはびっしりと汗をかいていた。

……セカンドインプレッション。

最悪だったのは負けた自分なのか。斬らなかった男だったのか。

未だあの事件は色褪せない。過去の物にできない。
消化不良のよう。
ちらりと無意識のうちにあの銀色を探す目に気が付く。一人赤面した土方は沖田に容赦なく笑われた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ