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□退化症状
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その後三回目、四回目と続く縁は全くもって素敵なものでもなんでもなかったが、何故かあの時のように斬る気で刃を向けることは無かった。

切り捨ててしまっても楽になれないことは分かっていたし、悔しいことだが格差、というものを土方は自覚していた。
勝てない。
だからといって親交を深めるつもりもなかったので斜めから見ていたはずだというのに、いつの間にかやわやわとあの男の空気に侵食されているような気がする。毒されるのが細胞であるなら薬を飲めばいいのだが、残念ながら人間関係には抗生物質が無いので困る。

「何してんの、多串君」
「多串じゃねぇってんだろ。いつになったら名前覚えるんだトリ頭」
「トリじゃなくて天然ですぅ」
「……お前に限って好転してないな、それ」

トリアタマと、天然パーマ。

相変わらず失礼な子だねそんな風に育てた覚えはありませんよ、と言葉は続くがキリがないので答えなかったら、後ろから肩口に顎が載せられた。

覗き込んだ銀時は短い沈黙の後、折れてるねぇ、と至極当たり前の感想を述べた。
折れてるな、と返す自分も相当どこかキていると土方は思う。
あまりに日常風景過ぎるので突っ込む回数は大分減った。それは相手に慣れた、ということなのか、慣らされた、というのか。多分どちらも本当なのだろう。

「…大事にしてくれてんの?」
「……何が」
「思い出」

折れた刀のことを思い出したらしい。折った時は思い出せずに変な名前をつけて話を切り上げたくせに。
それが今でも引きずっているのだから、惰性は憎むべきものなのだ。絶対に。

綺麗な断面を見せる傷口を指がなぞっていく。

そういえばこれにやられたんだよぱっくり。

そういう銀時の肩がもうとっくに完治して後遺症なんてものも残っていないことを知っているから、その指も切れてしまえと土方は毒づいた。
気が乗らないときまで傷口のことを持ち出して懐柔する男に罪悪感とか責任感とかいうものを感じるのは随分昔に止めた。それでも流されるのは、何故だろう。

やはり惰性だ。忌むべき性情。

背後から覆いかぶさるように体が密着している。ヒョロヒョロしているように見えて付くべき筋肉はきっちりついていることを知ったのはいつだっただろう。
背中からもうひとつの心音が聞こえる。緩やかなリズム。刀の傷口をなぞった指は腹部に落ち着いて、土方は抱きかかえられているような錯覚を覚える。実際抱きかかえられているのだけれど、羞恥心が勝ったので知らないふりをした…この体温にも、大概慣れていたけれど。
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