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□その後の話。
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「―――ッ、怪我人にそりゃないんじゃないの!」
「怪我人がそういう元気な真似すんなよ!!」

再びソファに沈み込んで身悶える銀髪を据わった目で見下ろす。瞳孔半開きだ。全開にされなかっただけありがたく思え!

左脇腹に響いたらしい。あれだけ派手に一撃食らえば小さい衝撃だってそりゃあよく響くことだろう。触れられた唇を手の甲で拭うと、僅か鉄の味に気が付いた。

「オイ銀髪、口ン中切ったのか」
「あー、ちょっとだけ?つーか中だけじゃなくて外も?」
「自分でわかんねぇのかよ…」

さっきも言ったような気がする。絶対にこいつは感覚神経が麻痺しているに違いないのだ。

「口ン中は消毒できねぇな」
「だから唾液で消毒……いやいやいや!嘘ですから!何も言ってません!!」

扇風機みたいに首を振る姿が面白かったので僅か鞘から抜き出した銀色の刀身は仕舞ってやることにした。

ぐったりしている肩を掴んで一寸こちらに引くだけで疲労した体は倒れこんでくる。いつもスカーフを掴んで引き寄せられるお返しみたいに襟元を引っつかんで口の端、僅かに切れて紅くひび割れた皮膚を舐めてやる。

ぱくぱくと開閉する口に口角を吊り上げて笑うと、解放した体は脱力して膝に転がり込んできた。
良し、いい度胸だ。

「…本当に、どうしちゃったの多串君…って、ギブ!俺一応怪我人ですからっ」

首に指を伸ばしたら再び扇風機になった。その動作も緩慢になっていたので、息をついて肩を落す。

疲れていると暴れなくても良い。時々思いついたように仕掛けてくるが、それでもいつもに比べれば大人しいほうだ。大人しいこいとは、へたれた犬みたいでいつもに比べれば少し可愛い。言うとどういう行動に出るか分からないので口には出さないが。

あちこちに元気良く撥ねた銀色の髪を手櫛で梳いてやったら呻くような唸るような声がした。

「こんな美味しい状況で手が出せないなんて…ッ」
「何不穏なこと考えてやがんだ、怪我人のくせに」
「イダッ!イダダダッおまっ、なんてことを!」

思い切り青あざのところを掴むと銀髪は膝の上でのた打ち回った。サディストめ…!と痙攣する声の呪詛を笑って聞いた。
プリンス・オブ・サディストの巻き起こす日々の脅威に比べればこんなこと、サド道の序の口にもならない。
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