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□第五十訓
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師走ですし、仕事が多くて大変だったのは目の下にうっすらとついた隈で分かりました。
それでも多分、山崎さんあたりから聞いて、心臓止まるほど驚いて駆けつけてくれたのも分かります。瞳孔開きすぎてそろそろ土方さんの方を病院に運んだほうがいいんじゃないかって形相でしたから。

「車に撥ねられた程度で手術なんて受けてるんじゃねぇよ、てめぇいつもその犬に飲み込まれかかってるくせに…っ!!」

あ、僕と同じこと言ってる。
ゼエハアいいつつ上着を放り投げた先、半壊した家具に引っかかったけれど気にもしない。
右手はいつも刀を使うために空けているはずなのに、コンビにのビニール袋一杯に甘い菓子が詰まっていて、コンビニに駆け込むなり棚から放り込んできたに違いないと思った。

いつもなら銀さんこの時点で感動して僕たちが居るにも関わらず土方さんに抱きついて撫で回してキスしまくって鉄拳制裁受けるにも関わらず奥部屋に引きずり込もうとするのを僕と神楽ちゃんで阻止するですけど、(時々失敗もするんですが)今の銀さんは銀さんじゃないから。

銀さんであって銀さんじゃないから、本当に今だけは、土方さんに会って欲しくなかったんです。

土方さんを見ても何の反応もしない、死んだ魚みたいな目を輝かせもしない銀さんを見たくなんか無かったし、

「……おたく、どちらさまですか?」




……そんな土方さんの顔も、見たくなかった。



声が届いた瞬間に面白いくらいすぅっと表情が失せる。
十分開いていたはずの瞳孔はさらに開いて、収縮はしようとしなかった。
力を失った右手からビニール袋がすとんと落ちて棒キャンディーとかチョコレートとかプリンとかが隙間から転がりだして、銀さんの爪先に当たって止まったのを、僕も神楽ちゃんも呆然と見ていることしか出来なかった。

何か言おうとして口を開いたその唇が直ぐに真一文字に引き結ばれる。何が起こったか、土方さんは瞬時に察したらしかった。いつも怒ったところばかり見ていたから無表情なんていつ見たきりだろう。
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