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□虚構世界の現実
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今回は自分が悪いということは分かっている。
前回の約束も反故にしたし、今回の約束もそれでも笑って許してくれて取り付けたものだったのに、急に仕事が入って行けなかった。その上無線封鎖までかけられて事前に連絡しておくこともできなかった。
怒って当たり前だと思う。
だがあそこまで怒るとは土方も思わなかったのだ。どこかでまだ甘い予想をしていて、二日も無駄にさせてしまったのに、その事実を軽く考えすぎていた。
「…っ」
考えれば考えるほど頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。混乱しきった頭を抱えて、土方は電柱にずるずると凭れかかった。
全身にべったりと汗をかいている。まだ春の初めで、夜も更け切った今は気温も低いというのに汗は一向に引こうとしない。
毛穴から噴出す水分は激しく鼓動を続けひっきりなしに血流を送り出す心臓に合わせるようにして失われていく。全身をすさまじい勢いでめぐっていく血液に思考は余計に朦朧とした。
自分は何をやっている。
謝れば済んだことではないか。
自分が悪かったのだ。誠心誠意謝ればよかったのだ。
だが銀時の表情と、取り出したものを見て、恐怖で身体が硬直して―――――今に至る。
銀時の気配が感じられなくなるまで必死になって走った足の感覚は痺れたようになっている。
「…何逃げてんだ、俺ァ…」
士道不覚悟もいいところだ。切腹ものではないか。
無理やり立てようとした膝はがくがくと震えている。
冷たい目だった。
諦めてもう一度膝から力を抜くと、土方はそこに顔を埋めて細く息を吐く。堪えていたものが堰を切ったように噴出してきて、喉が震えたそのときだった。
「…土方?」
低い男の声が頭上から降ってくる。知ったあの声ではないかと、それだけに反応したが口調も音質も違った。怪訝そうな声だ。怒り心頭に達しているはずの銀時がこんな声を出すはずがない。
ぼんやりと顔を上げた自分を見て、慌てた顔をする声を掛けた男には見覚えがあった。
「……長谷川さん……」