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□虚構世界の現実
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+++虚構世界の現実+++



長谷川は仕事帰りという風体だった。
この時間までかかるとなると、今度は一体何の仕事をしているのだろう。そろそろ三時を過ぎる。朝の方が近い時間帯だった。シャツの上にジャンパーを引っ掛けて、幾分すすけた顔には矢張りサングラスがあった。今度の仕事は肉体労働系らしい。

「お前さん、どうしたんだよ、こんなところで……」

何かあったのか、と聞く声は戸惑っている。必死で走っていたから土方には現在地は分からなかったのだが、座り込んだ場所は屯所からかなり離れていた。
へたりこんでいるものだから怪我でもしているのではないかと長谷川は気遣わしげな声を出す。小さく首を振ると、あからさまに安堵の息を吐くから、そんなに自分は大変な状態なのだろうかと土方はぼんやりした頭で考えた。

そういえば、隊服を着たままだ。

だがこの惨状は仕事のせいではない。

過労死するのではないかと思うほど詰まりに詰まっていた予定をそれこそ必死で片付けて、それから着替えもせずにかぶき町に走っていって、それで。

「…っ、ふ…」

急に目の奥が熱くなって、片手で土方は目元を覆ってしまう。
矢張りどこか悪いんじゃないのかと突然嗚咽を零しだした自分に長谷川は慌てている。近藤に良く似た、節のある男の手に髪を梳かれて余計に張り詰めていた糸は一気にぶつりと音を立てて切れてしまった。

銀時を怒らせて、長谷川を困らせて、自分は何をしているんだろう。

「屯所に連絡入れて、迎えに来てもらうか…?」

てっきり土方は具合が悪いのだと思い込んだ長谷川が背中をさすりながらそう言うのにはっとして、涙でぼやける視界で土方は眼前にある汚れたジャンパーの袖口を掴んだ。
突然の行動にトレードマークのサングラスがずれて驚いて見開かれた目がその下から覗くのに余計に自己嫌悪は積み重ねられる。

だが今、屯所にも私宅にも帰ることは出来ない。

銀時はどちらの場所も知っている。あの後追いかける足音を振り切ってから銀時がどちらかに回った可能性は、高い。

……合わせる顔が、ない。
どんな顔をすればいいというのだ。


帰れない、という土方に何かあったのではないかと長谷川は眼下で座り込んでいる青年を見下ろす。
膝を抱えてしまって、自分の袖口を必死で掴んで首を振る土方は、まったくもって常の彼ではなかった。仕事の関係で不都合でも有ったのなら真選組に連絡をするべきなのだろうが、本人はそうではないと首をふる。
だがまた俯いてしまった青年をこのままに放置しておくことは、いくらなんでも出来ない長谷川だ。

歓楽街から距離はあるが、汗ばんだ身体でまだ息も整っていない土方は常の鋭すぎる眼光を完全に失ってしまっている。
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