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□傷跡と、証拠
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銀時がその日真選組屯所を訪れたのは、まだ昼の時間帯であった。
度々土方目当てに屯所に侵入する銀時は、既に土方との関係が公になっていることもあって既に顔パス状態である。
最初は隊士がさんざ妨害しようと奮闘したものだがその結果屯所の被害が半端ではなくなって、結局副長殿の雷が直撃したのだ。そのせいで、今でも銀時はあまり快くは思われていないのだが手出し無用ということになっている。
土方はいつもどおり文机にむかって書類整理をしていた。
外の季節とは無縁とばかりに室内の温度を下げ続けているクーラーは、去年働きすぎて室内にいながら熱中症になり倒れかけた後に取り付けられたものである。
精神はあるとき確かに肉体を凌駕するが、仕事に集中しすぎて体が先に音を上げるなんてことをやらかすあたりが、全くもって貴方らしいとかかりつけの医者に呆れられたものだ。
「土方」
正しい名前で呼ばれ、ふと顔を上げた土方は、ことりと無意識に首をかしげる。
声だけで深い集中の淵から土方の意識を外の世界へ掬いだす良く知る声は、常と違って酷く平坦であった。
まだ昼の時間帯だ。
ここに銀時が訪れるには、まだ早い―――――そう、机の上に鎮座する時計にちらりと目を走らせようとした瞬間、かすかに鼻の粘膜を突いた匂いに土方は反射的に立ち上がっていた。急な動作に眩暈がしたが、そんなものは気にもならない。
その匂いなら、微量であったとしても気が付かないはずが無い。
仕事柄慣れてしまうかと思っていたのにそうはならなかった、臭気。
スパンと慌てて開いた障子の向こう、へらりと気の抜けた顔をしている銀時の左肩は―――――予想したとおり、真っ赤に染まっていた。