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□愁眉
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「あんたは本当に、残酷なお人ですねィ」

沖田に言われるまで、近藤はそんなことに欠片ほども気付かなかったのである。


+++ 愁眉 +++


最近トシが綺麗になった気がする、とそう言った返事がそれであった。

話し相手の沖田は、何故そうなると近藤が言った時には(近藤が随分考え込んだ後だったからかもしれないが)いつものごとく、猫のようにするりと部屋から抜け出していった後で、近藤は一人きりになった室内でそうっと少年の残した言葉の意味を探った。
男に対して綺麗、などと使う言葉なのかも分からない。だが土方はそうとしか言いようがないのだから、仕方がない。
長年一緒に居ればその目付きの悪さにも自然と慣れてしまうし、口の悪さの裏に不器用な労りが隠れていることも分かるようになる。それが分かるのは自分と沖田と後数人だけなのだが、それは近藤に対して土方が殊更優しかったからかもしれない。
近藤は他人の言った言葉を多方面から捉えることがどうにも苦手だった。
だから長年一緒にいる特別それをよく分かっていて、手間を取っ払ってくれるのかもしれない。
豪快でいかにも男らしい印象の近藤に対してみれば、身長にはさして大きな開きはないというのに、横幅で劣る土方は近藤と並べてみれば華奢に映るのかもしれない。面立ちが整っているから、というわけではないだろうが土方はたいそう女にモテた。
だがそういえば、最近土方のそんな話を聞かないな、と近藤は思い返してみて気がつく。
以前はどこからともなく回りまわって聞こえてくるほど派手派手しかった土方の女関係ではあるが、ここしばらく、それも真撰組になったあたりからぴたりと聞こえなくなった。副長の仕事は生易しいものではないから、非番にも月に数度あるか分からない身の上で恋に費やす時間などないのかもしれない。同じかそれ以上に忙しいはずの近藤なのだが、こちらは実に奔放なものだ。
だがそういう忙しい生活なのだが――――土方は綺麗になったと、近藤はやはり思う。
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