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□愁眉
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恋をしているのではないか――――と近藤が思ったのは、そういうわけであった。

恋をしているから綺麗になっただなんて、土方を巷の町娘のように考えているわけではない近藤だが、男はではどういう時に綺麗になるのかといったらそんなことはちっとも考え付かなかった。そもそも男に対して綺麗とは、あまり使わない言葉だろう。土方は別格だと思う近藤だが。

土方は、綺麗になった。

もともとは白かった肌は青ざめるように透け、その代わりのように赤い唇はそこだけまた、紅くなったような気がした。密に生え揃った睫毛は伏せられがちな目蓋に従って、頬に影を落とすようになった。
そういえば、少し痩せただろうか。そう気付いて近藤ははっとした。
昔はそうでもなかったというのに、今の土方を思い浮かべてみると、かっちりとした隊服に隠れてしまってそうそうは分からないのだがどこかかやはり、削げ落ちてしまっているような気がした。前はよく一緒に風呂も入っていたというのに、そういえばここしばらく土方は仕事があるからといって他人と一緒に風呂に入らなくなってしまった気がする。もちろんそれは本当で、就寝が毎日二時・三時になるほど土方は忙しいのだ。
自分に回ってくる前に大体の書類は決裁の体裁が整えられているし、報告書も殆ど作られている。
もし土方が本当に恋をしているのなら、さすがにあのワーカーホリックをどうにかしなければならないのではないかと思う。土方が忙しいのは自分の責任でもある、とさすがの近藤にも分かっていたので。
そのせいで彼の恋がどうにかなってしまうかもしれないと考えただけで、近藤はなんだかどうしようもない気分になってしまったのだ。

そのまま居ても立ってもいられなくなってしまった近藤は、副長室へと足を向けた。近藤の居室のすぐ隣が土方の執務室兼私室になっている。近藤はストーキングのため殆ど寝るためだけにあるような居室なのだが、土方は大体の時はそこにいる。むしろ近藤とは逆で、昔に比べて格段に出歩く機会も減っている気がした。市中巡察と江戸城への報告と、後は警察のどれかくらいだ。非番の日でも土方は大体は居室で仕事を片付けているのである。それなのに、本当に恋をしているのだろうか。しかし近藤が見ているだけが土方の日常でもないだろう――――近藤はそう思いなおして、隣の土方の執務室兼私室へと手を伸ばした。

室内は、凄いことになっていた。

天井までうっすらともやが掛かっているような気がする。
灰皿にはうず高く吸殻が積み上げられていて、そろそろ雪崩を起こしそうだ。
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