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「先刻申し上げたとおりです、父上」

それに、何より、九兵衛を苛立たせたのは――――

「家督のことでしたら、俺は土方十四郎を柳生家の婿に迎えるつもりです」

そう、真撰組副長、土方十四郎の存在であった。

「父上もご承知の通り、僕は女です。このまま隠しおおせても、僕一人では子は産めません。柳生の家はこのままでは廃れます」
「それは分かっている!しかし…」

輿矩が反対するのは、土方十四郎という人物に対して、おおよそ良い印象を持っていないせいであろう。
真撰組。人斬り集団。その鬼の副長、土方十四郎。
局長の近藤とは異なり、徹底的なまでに敵を抹殺しようとするあり方は、冷酷の一言でしかない。まさに人であって人に非ず。地獄の鬼との噂である。
顔立ちは整ってていて女好きしそうな色男だったけれど、そんな人間に息子――――否、娘と娶わせるわけにはいかないというのが、親の心境であった。第一、彼はどこの出とも分からないなりあがりの馬の骨だ。権現様以来の名家を自負する柳生家の当主としてはなお、受け入れがたい。

「しかし…婿にするといってもどうするつもりだ。相手は男だぞ…!!」

世間的には、九兵衛はまだ男だということになっている。それがよもや男を婿にするわけには行くまい。
輿矩は件の事件で――――もう世間に、九兵衛が女であると公表する事も辞さないつもりであったのだが、九兵衛の目には反論を封じ込めるような何かが宿っていた。
九兵衛は父親の動揺を芝居でも見ているような顔で眺めながら口を開いた。

「勿論、対外的には僕は嫁を貰います。――――妙ちゃんを。けれど子供を産むために、土方を妾として柳生の家に囲います」

今度こそ輿矩は絶句した。
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