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□残暑残景
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夏の終わりが、近づいている。
否、暦の上ではもう夏はとっくの昔に死に、今は秋の半ばほどと行ってもいいはずの頃合であった。
一度弱まり、息を吹き返した葉月が終わり、長月の半ばまでもまだ熱を撒き散らし、ようやくその月の終わり、翳り逝くように収束しつつあった。
今年は冬が来ないかもしれぬとまでも思われたものだが、いくら人があくせくしようと、この国では季節はのんびりの己のペースで回っていく。
夏の次には秋が来て、その後に冬が粛々といつか訪れるのだ。

銀時の慣れない夏も、もうひと段落、そろそろ落ち着く頃であった。
銀時の人生の中でいまだかつてこれほどまでに忙しい時期があっただろうか。
戦争中は別だとしても、こんなにも息切れをするような日々はなかったはずだ。
この夏中、銀時はあちこちを駆けずり回っていた。江戸城を制圧し、散発した抵抗をなるだけ犠牲を出さないように抑え、要人の警護に駆け回っていた。
昔戦争していた時は報道もされなかったから、白夜叉の顔なんてものは仲間内しか知らなかったものだが、今はそうは行かない。反乱鎮圧時にうっかりとテレビに映ってしまって以来、銀時は窮屈な想いを味わっていた。今思えば、あれは桂の策略だったのかもしれない。顔が割れてしまった以上、そうほいほいと銀時は自由気ままな万事屋生活はできなくなってしまったのだった。
このまま逃してたまるか、お前も道連れだ、という桂の意思がひしひしと感じられて、頸元が思わず涼しくなってしまう銀時だ。
それも含め、人手不足の一因は、さっさと隠居を決め込んでしまった高杉にもあるのだと思うと、苛立ちもひとしおというものである。
何しろ高杉は己で幕府の転覆を企て遂行したくせに、やることだけさっとさやってしまうと隠居を決め込んで、いまや土方とその二人の子供と一緒に日がな一日、いちゃついているのである。
土方の健康状態を思うと、そういちゃつけるはずがないのだが、いつも帰りは遅くなる銀時にしてみればさみしいことこの上ない。土方は銀時が帰ってくる時間になると大抵布団に追いやられているので、銀時は作ってある夕食を高杉の晩酌とあわせて食べることになるのだった。

「…さすがに土方分が不足してるよ、ウン」

精気の抜けきった目元で、銀時はぼんやりと呟いた。
否、今だけではなくもう随分と長いこと、銀時は土方分不足に悩まされているのである。
四年分を一括で供給してほしいところだが、それをすると土方が心配になると、高杉の妨害も入るだろうので、いちゃつきたくてもとてもではないが無理である。
折角ひとつ屋根の下で生活しているというのに、顔をまともに見ることが出来るのは朝だけだ。
いってらっしゃい、と玄関まで見送りに出てくれるのは嬉しいのだが。

幕府がなくなって、一月あまり――――そこで銀時のなけなしの勤勉さは使い果たされた。
今までの忍耐という貯金すべてを使い果たした銀時は、とうとう桂とを脅しつけ――――否、直談判して、半休をもぎ取ったのだった。
たった半日ではあるが、目元にどんよりと隈を作った桂の顔が全くもって幽霊より酷かったので、二週間!と胸を張って要求したはずが、たつたの二分の一日になってしまったのである。
護衛が徐々にメインになりつつある銀時ですらこんなにも忙しいのだ。桂は最早、不眠不休だろう。
高杉だけが何もせずにふらふらしているのは、どう考えても不公平だと思う。

「ただいまー…」

ふらつきながら、銀時は庭の古木戸を潜った。
この時間なら庭に出て子供たちが遊んでいるかと思ったのだが、空振りだったようである。がらんと静まり返った庭先を見て、銀時は肩を落とした。銀色はもう寺子屋に上がってもおかしくないような体格をしているが、金色の方は最近ようやく歩けるようになった…と思ったら猛スピードでダッシュまでするようになってしまったので、活発に遊んでいるかと思っていたのだが、今日は違ったようである。
ふと庭に面した部屋の障子が開いているのに目を付けると、柱に預けられた紺の着流しを銀時は見つけた。
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