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□残暑残景
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「土方?」

声をかけ――――そっと近づいて覗き込み、銀時はまばたくと、そっと笑った。
畳の上に薄物を敷布代わりにして、子供がふたり丸まっている。部屋が狭いわけではないというのに、二人とも見事に丸まって、ほほを寄せ合っているのがまるで犬か猫の仔のようだ。
腹にブランケットを掛けられて、まだ蒸し暑いというのにすよすよと気持ちよさそうに丸まっている。
見ているだけで眠気に欠伸が出そうになるような平和な景色では何より微笑ましいのは、柱に背中を預けて座っている土方である。紺の着流し、短く切り揃えてしまった髪が揺れれば、しっとりと汗の浮かんだ生白いうなじがちらちらとその下から現れる。
そのたびに、平時であればその色に当てられて赤くなってしまうだろう銀時も、彼の目蓋が重たく眠っていて、そしてうとうとと半ば寝入っているというのにその指先が捕まえた団扇がゆっくりと動いては、仔犬のように丸まっている子供二人の髪をそよそよと引っかいているとあっては、不埒なことなど考えていられないというものだった。
なんだか妙な感動まで覚えてしまう。
まさか川柳か何かだけだろう、と思っていた光景だ。

「…かーちゃんって凄ェんだな」

クーラーは付けられていないし、扇風機も確かなかったはずだが、まさか残暑の暑気払いに今時団扇で、うとうとしながらも手を動かしているなんて。
銀時に母親の記憶はない。物心付いた時はもう一人きりだったから、余計に母親に対して、過剰な憧憬を抱いている――――というわけではない、と思っていたのだが。
気持ち良さそうにすよすよと眠っている子供たちが、ほんの少し羨ましい。

「確かに、おめーらのかーちゃんなんだけどさ」

(…俺の、――――でも、あるんですけど)

恋人というにはまだ照れくさく、自身が無いのが悲しいところだ。

しばらくその光景を眺めていた銀時は、落ちかけた太陽を振り返った。
南中し頂点を極めた太陽は、あとは弧を描いて落ちていくだけである。今日は雲も多く日が翳れば多少は涼しい。
コレ以上は日中気温も上がらないだろう。
するりと近寄って、銀時は土方の手から団扇を抜き取った。眠り端でも分かるのか、ぴくりと目蓋が動きかけたが、もぞもぞと指先があちこち動いて、ようやく銀時の指を捕まえ、きゅうと握る。

(…う、わ…)

銀時はたちまち口元を押さえて、思わず零れ落ちそうに鳴った声を噛み殺した。
団扇とは少し感触が違うのが気になるのか、あちこち確かめるように指をまさぐっては、やがておさまりのいいところを見つけたのか、ほんのりと笑った土方にぎゅうと強く握り締められれば――――銀時の顔は、もう真っ赤になってしまう。
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