隠れ家
□空籠
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「ただいま」
どんなに小さい声で言っても彼は自分の声だけは決して聞き逃すことはない。
それを確かめたくて、いつもほんの囁くような声で言うのだけれど、土方はすぐに玄関口に現れてはほころぶように銀時を見て微笑うのだ。
「おかえり、銀」
少し掠れた大人の声が、酷くいとしい。
痛覚が他人よりかなり鈍い以外は機能補助のために五感を過敏気味に設計されているらしい土方は、こうして銀時がいつも声をかけるより先に足音で個人を大抵識別してしまうということはこの前知ったのだけれど、それが分かっていてついつい銀時は些細な愛情確認をしてしまう。
土方の首輪は、事件直後に裏町で完全にはずしてもらった。だから今彼の首元には、あの鎖を連想させるようなごつい革の首輪はないし、土方は遠隔操作からは完全に自由だ。だがそのために今まで制御されていた身体能力も全て解放されてしまっているのが、目下の悩み事である。
「今日もがんばったよー」
「おつかれさま」
肩口に額を預けて懐いても、もうそんなに首を下ろさなくてもいい。
土方の身長はいまや銀時とほとんど変わらない。銀髪をかき回す手つきにうっとりとしながら、銀時は大きく呼吸をして、土方の匂いを肺一杯に吸い込んだ。傍目から見れば飼い主にじゃれ付いている大型犬のような格好にも見えなくもない。