隠れ家

□足枷
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「そよ」

普段より少々低い声を上段から掛けると、一段下でかしこまる少女は小さい体をますます縮こまらせて、びくりと震えた。ややあってはい、と蚊の鳴くような声で答える妹哀れに思いながらも茂茂は目を細めることしか出来ぬ。

「真撰組に、銀玉とやらを探すように命じたそうだな」

出来るだけ静かに聞いたというのに、そよは兄の顔を恨めしそうに見上げる。噂で聞いたのだ、と言えば愛らしい顔はくしゃりと今にも泣き出しそうに歪んでしまった。とはいっても、たしなめずにおくわけにはいかない。茂茂は溜息混じりに、言葉を続ける。

「何故にそんなことを頼んだのだ。彼らは今その銀玉とやらのせいで起こる事件のために余力もないと聞く。治安の維持のため働く彼らに、家臣だとはいえ無理を通すなど、して良いことではない」
「分かっております…」

少女の頭が俯くのに、茂茂はまたひとつ、息をつく。どうもそのあたりは、そよとてわかっているのだろう。茂茂もそれだけでそよが、真撰組に頼みごとをしにわざわざ屯所に訪れたとまで考えてはいない。

「そよ。下々と同じことをしてみたいというだけではなかろう」

見下ろすまだ幼い妹の方が、隠しようもなく揺れた。

「真撰組の…あの者の顔が見たかったのであろう、そよ」

ゆっくりと上げられた少女の顔は、真っ青だった。返事もいらぬほどの顔色の変調に、やはりな、と茂茂は嘆息するしかなかった。
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