隠れ家

□足枷
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茂茂は、そよを不憫に思う。将軍家の姫というものは代々そういうものであるとはいえ、そよは外の世界から全く隔離されて生きることを、茂茂同様に義務付けられている。金銭的な自由はある程度確保されてはいるが、それを満たすだけの物欲に兄妹は恵まれているわけではなかった。その分を、我慢するということをまだ完全に制御できない妹は、好奇心に変換してしまっているのではないだろうかと、茂茂は思うのだ。
そういて以前、そよは外界に飛び出してしまった。
あの時飛び出さなければ、一生そよが自分の意思で外に出ることなどできなかったであろう。だが、妹にとっての人生の本道を、飛び出してしまったことがなおさら褪色させてしまつたのだとしたら、こんな皮肉は無い。外さえ知らなかったなら、好奇心を押し殺すことをやがて憶えたなら、そよもやがて自分に相応な人生を、大人しく生きてゆけただろう。何かにこんなに飢えることもなかったであろう。
茂茂はそれが、哀れに思えてならない。
そよは外の世界で、見つけてしまったのだ。
今までに体験したことの無い激しい感情を、そして得てしまったのだ。

しばらく唇をかんでいた妹は、ややあってゆっくりと顔を上げて、泣き笑いのような面持ちで兄を睨みつけた。

「兄上こそ、ずるうございます。夜遊びの仕方などと松平様にご無理を言って、あの方と一緒に…」
「そよ、」
「兄上、兄上とて私と同じ事をなさったではありませんか。あんなにあの方のお近くに行かれたではありませんか…!」
「そよ…!!」

くしゃり、とそよは笑った。ついにほろりとその大きな睛を潤ませる水滴を、まろい頬に零しながら笑った。

「外になど、行かねば良かった」

その目の奥に、暗澹たる色彩が渦巻いている。
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