隠れ家

□ヴィブラート
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木枯らしが何も遮るものもないコンクリートの上を音を立てて駆け抜ける頃になると、屋上もめっきりと寒くなってきた。
それでも陽が出ているうちは風さえ多少ゆるやかであればぬくまったコンクリートが暖かい。猫のようにだらしなく真昼間から寝転がるには最適で、だからついつい高杉は寒くなってマフラーが手放せなくても、ついつい屋上に来てしまう。

昼寝のついでに、彼に会うために。


立ち入り禁止の屋上は、四方に柵が廻らされているだけで、給水塔の上にもさして美しい光景が待ち受けているわけではない。立ち入り禁止、というその四文字にしか興味をくすぐられることのないその場所に高杉が入り浸るようになったのは、入学してすぐのころだった。何の事はない、喫煙場所を探していたのである。高杉はそれでなくとも素行不良で教師に些細なことでマークされてばかりだったから、煙草くらいはぐちぐち言われることなくのんびりと楽しみたかったのである。
高杉はいわゆる典型的な問題児であった。飲む、打つ…買うはなかったが、その代わりに吸っている。ついでに殴ってもいるような少年で、高校に入りたてのころに思い切り上級生を泣かせたものだから、今ではすっかりと敬遠されてしまっている。尤も彼とて最初は好き好んで喧嘩ばかりしているわけではなかった。高杉は人相が…というより目付きが異常なまでに鋭く、また斜に構えているようなところがあったためそれが相手には余計に挑発しているように見えるらしい。
生まれつきなものは仕様がないといつの間にか高杉は成長するに従い、やたらと喧嘩が上手くなり、比例するように孤立して行った。
ただし友人については、高杉が途中で努力することをすっかりと諦めてしまったせいもあるのだが。

かといって高杉は、恐れられているだけかというとそうでもない。
眼光の鋭さに隠れがちだが、顔はむしろ整っているほうで、その上自分から喧嘩を売ったりはしないので、この年頃の少年たちにはこっそりと人気があったりもする。本人は全く意識すらしていないのだが。
そんな高杉が恋をしたのは、高校一年の秋だった。
春には早々に屋上にあがって喫煙ライフを楽しんでいた高杉が彼に会わなかったのは、柄にも無く風紀委員などをしている土方が、それまで高校で煙草を吸うのを我慢していたからだった。
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