隠れ家

□飼育員と俺
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雪が降っている。
黒い檻の向こうには、天から舞い降りたときには真っ白だった雪が無残にも何百人もの足に踏み固められ、茶色く汚れていた。人が大勢通るものだから、夜半には厚く降り積もっていた雪は、午前中にはもう随分汚らしい。

土方は檻の上部、それを眺めながら、途方に暮れていた。


土方は外見的にはクロヒョウである。天鵞絨のようになめらかな黒い毛皮に碧の睛をした、美しい猛獣だ。
外見的には、とつけたのには理由がある。
土方は外見的には完全にただのクロヒョウなのに、人語を解すし大体は人間の考えていることも分かるのである。いわばクロヒョウの姿は擬態とも呼べるものではあるが、残念ながら人語が堪能であっても、その声を聞くことのできる人間はほとんどいないし、コミュニケーションが得意ともいえないからこの動物園では、ただの動物として扱われている。
この動物園には、土方の同族が大勢いた。
隣のゲージのアムールヒョウは沖田というこ憎たらしい少年だし、向かいのゲージで四六時中丸まっているホッキョクギツネは銀時というらしい。
ただの人間には動物にしか見えない彼らではあるが、見える人間には動物の耳と尻尾姿の人間に見えるらしい。むやみやたらと倒錯的な姿である。変種の中でも一握りしかいない擬態種をひとまとめにしているのが、この動物園の園長――――志村妙なのであった。
一握りの人間にしか擬態種の本当の姿は見破ることは出来ないらしく、この動物園には大勢の人間が訪れるにも関わらず、イメクラなのかとクレームは来たことがない。
妙の悪ふざけのようにつれてこられ集められた土方たちであったが、この動物園には悪いことに、擬態種の本当の姿が分かる人間がもう一人、いた。
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