隠れ家

□nero angelo
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―――――浅い眠りは、呼び出しアラームのけたたましい音に破られた。


重い目蓋を押し上げてベッドサイドの時計を見やると、仮眠室の簡易ベッドに入ってからまだ二時間経っていない。本当ならあと三時間は眠ってもいいはずなのだが、いつ干したか分からない湿気った布団の黴たような匂いが睡眠欲を遮った。義体や半義体の人間ならば、多少睡眠時間が足りなくともどうにでも調節が可能なのだが、完全生身ではそうもいかない。
端末の通信スイッチを気だるい指でオンにすると、たちまち泣き声めいたヘルプコールが入る。
当直の隊士だったはずだ。地味な男だったので、入隊してからも名前と顔を認識するまで一週間もかかった。確か―――今でも土方は、一瞬男の顔と名前を結びつけるために考え込む。

「山崎か。どうした」
『副長ォ、お休みのところすいません。一寸梃子摺ってまして…』
「探査に引っかかったら駆除するだけだろうが」
『それが駄目なんですよォ。侵入がバレてることは伝わってるはずなのに、諦める様子もなくて…』

珍しいな、と土方は眉を跳ね上げた。大抵の侵入者は侵入がバレた時点で逃亡する。伊達に国家機関の防衛を任せられているわけではないのだ。しかし分厚い防備も逆探知の危険性も顧みずに、悠々と(でもなかろうが)侵入を続けるという輩も初めてである。
多少の興味を刺激されて、土方はベッドから上体を起こすと壁に掛けられていた黒いジャケットに袖を通そうとして、少し迷ってから結局は羽織るだけにする。

「他に人は出払ってんのか。総悟はどうした。非番じゃなかったはずだろ」
『沖田さんがいるから余計に大変なんじゃないですかァ!』

泣き言めいた声音は完全に泣き声になった。
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