隠れ家

□nero angelo
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「……分かった。二分後にそっちに到着する―――コネクタの準備をしておけ」

それでこっちにわざわざ話が来たのか、と諒解した土方はそれ以上の押し問答を止めて乱暴にドアスイッチを叩いて―――僅かの間、立ち止まる。
眼前、硝子張りの大きな廊下窓の向こうには、天を支えるかのように巨大な柱状のビルが林立してキラキラと光を撒き散らしている。

不夜城、と呼ばれる都市。

月は西に傾いて、くすむように鈍く銀色に光っていた。


+++

足早にコンソールに囲まれた電算室に土方が入室すると、モニターに向かっていた部下たちの大半き助かったといわんばかりに安堵をそのおもてに浮かばせた。壁面一杯にモニターのうちだけでなく、その外側へも数字は飛び出して、幾何学的な模様や文字列はいたるところに這いまわっている。掃除好きがこの場にいたならば発狂しそうになるだろう。一応土方の部下たちも、実生活はともかくコンピュータの中の掃除は出来るはずだが、今は誰もそんなことを気にしてはいない。

「現状を報告しろ」

短く命令すると、活きの良い返事とともに一人―――山崎が立ち上がると、土方の肩に掛かったジャケットを恭しく押し頂いて畳みながらその腕に掛けた。寝起きにはまだ少し肌寒い空気も、男ばかりが押し込められているこの部屋の中では暑いくらいだ。
足を進めながら聞く土方の一歩後に付き従うようにして、山崎はメモもなくスラスラと読み上げた。

「十二分前、中央省庁の共同サーバーに不正アクセスが検出されました。数は一。ウイルスの様子はありませんが―――」
「続けろ」

リノリウムの床に能面のような男の顔が映っている。寝不足のせいか、少し疲れているようだった。機械の香りは室内に充満している。換気扇を幾ら回してもちっとも薄れていかないような気がするのは、最早土方の頭の中に染み付いてしまっている香りだからかもしれない。
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