隠れ家

□純化願望
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だが攘夷志士は首を振った。

「連れがいます。年のころが同じほどの男ですが…」

いやに色の白い優男なのだという。
黒髪のほっそりとした体つきをしているが、目の色が異人のような灰青をしているらしい。
白夜叉は工事現場で働いているらしいが、その男は大体日中は家に居て、時折老舗の呉服屋でアルバイトをしているのだという。
そのまま放置してしまっても高杉は良かったのだ。
最早銀時は半ば隠遁生活を送っていて、攘夷や自分たちに関わることはなさそうである。銀時がよもやあの『金翅雀』を使って何かをするということもあるまいと高杉は踏んでいた。高杉としても、春雨を利用して新しいルートで武器を自由に入手できるようになった以上、金翅雀一人だけに拘る必要は無い。
だがうっかりと腰を上げてしまったのは、銀時の暮らしているという安アパートが古巣に程近い町にあると聞いたのと――――缶詰生活にいい加減に飽きてしまったからだ、と高杉は心中誰にともなく言い訳をした。
地上に戻って以来決して引きこもっていたわけではなく、方々に出かけていいたもののあの事件以来警察の目は格段に厳しくあちこちに網を張り巡らせていたものだから、窮屈で仕方なかったのだ――――。そうつらつらと言い訳を重ねながら高杉は一人ぶらりと古い町並みを廻りだしたのである。

銀時の居場所は分かってはいたが、高杉は監視をつけようとはしなかった。
だが工事現場で働いているらしいとは聞いたから、ふらふらとそこらを散歩ついでに見回るくらいのつもりだった。日も暮れかけているから、今日はもう引き上げているのかもしれない。脚を進めるくせに、心中では会わなかったときの理由を捜しているのが自分でも滑稽である。
煙管片手にぶらつく町は、大都市大阪と古都京の間ほどにある。どちらともなく張り出したその中に、どちらの空気も取り込んでほどほどににぎわっている町だった。京のように静かでなければ、大阪ほどに活気付いてはいない。人ではそこそこあるものだから、隠れ住むには持ってこいかもしれなかった。
そうしてしばらくふらついて――――どうせならこのまま顔など見なくとも、というところまで傾いたときにその光景は高杉の独眼に飛び込んできた。
工事現場のひとつだった。
今日の分は今さっき終わったらしい。繁華街の程近く、道路工事中だ。首にタオルをかけた日雇い労働者たちがお互いに軽く手を上げて方々に散っていく中に、夕日を照り返して橙に染まったその男の髪を見つけて思わず高杉は目を細めていた。
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