隠れ家

□blue bird 2
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辞表を出した途端、肩に入っていた力がすうっと抜けたような気がした。

背中に今までへばりついていた重りが溶けて落ちて、肺のうちにたまっていた鉛のような液体が小さく開いた唇の間から漂いだしてどこかに消えてしまったようだ。
元々何もかもを欺いてここにいたのに、それを多少なりとも負担に思うほどには、自分の精神は健全であったらしいと思うと土方は笑い声を上げたい気分に襲われた。

見送りは無かった。

逆に清々とする。未練がなかったわけではないが、これからここは、伊東のものになるのだ。そんなものは、自分が関わってきた真撰組ではない。後々複雑な思いを抱え込むくらいならば、今すっぱりとなくなってしまったほうがいい。

そのままフラフラとあの曰くつきの刀だけを持って市街地を潜り抜ける。後はつけられていないようだった。さんざなことをやらかしたから、自分にはもうそんな余力を裂く価値もないと思われているかもしれない。それはそれで好都合だ。

雑然とした船着場の一角、繋留された船に近づくと、作業をしていた男がアッと大きな声を上げた。

「貴様!真撰組の!」
「…連絡いってねェのかよ…」

げんなりとして土方は首を竦めた。
ズラズラと船から吐き出されてくる男たちに、また少し人数が増えたかな、と土方は思う。一応鬼兵隊の人員や挙動は全て把握しているが、高杉がこの場所に逗留しているのだからこれくらいの人手では少ないくらいなのかもしれない。
反応の鈍い土方に焦れたように腰の刀に手をやって浪士が怒鳴った。
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