隠れ家

□blue bird 2
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「幕府の犬めっ!何の用だッ」
「一人でのこのこやってくるとは、その自信が命取りだったな…!」

次々と浴びせられる罵倒に、土方はさてどうしようかと首をかしげた。
こちらは刀のせいで下手に斬りかかられても土下座しか出来ない。かといって斬られてやるつもりは無い。
首をかしげているうちに、あちらはますますヒートアップしてくれるものだから手のつけようが無いのだ。
いよいよ刀を抜かれて斬りかかられるかといういうときに、いっそのんびりとしたその男の声が掛けられた時は、とりあえず逃げるかと土方は半ば決断しかけていた。

「何をしているでござるか」
「万斉」

見ての通りだ、と肩を竦める土方に、万斉は突然現れた幹部に硬直した仲間たちを見てああ、とまたしてものんびりと頷く。
何故河上のことを名前で敵方の男が呼ぶのか、という目で疑い深く二人を見ている男たちの間をするりとすり抜けて土方に歩み寄った万斉は、当たり前のように土方の手を取った。

「思ったより早かったでござるな。長い間、大変だったでござろう」
「連絡は入れておいたはずだが…大層な出迎えだな」
「手違いでもあったか、晋助の悪ふざけでござろうよ。晋助は土方殿の困り顔を見るのが好きでござるからな」
「俺は嬉しかねぇってのによ。この刀だぜ?今はどうあってもやりあえねェし」
「晋助の悪ふざけはたちが悪いのは知っておろうに」

「悪かったな」

突然船縁から落ちてきた声に、あまりの事態に呆然としていた男たちは既に口を開閉させるだけで精一杯のようだった。
この男たちの中に三人の関係を正確に把握できた人間がどれほどいるのだろうか。
船縁に突然現れた高杉はプカリと煙を吐き出して、それから不機嫌そうに万斉を見下ろした。
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