隠れ家

□Doll play(高杉編)
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「戦が終われば全部変る。武士も農民も関係が無くなる。だから、そうしたら、十四郎」

高杉はぎこちなく笑った。歪んだ笑みが、少年の鏡のような睛の中に映っている。

「そうしたら、迎えにくるから」

その時は今度こそ一緒にいよう。
ずっとずっと一緒にいよう。


そう願って約束して、別れたのに。

左目を失い仲間を失い、やっとのことで辿りついた故郷に、少年は待っていてくれなかった。


だから高杉はずっと前から土方を奪い返すと決めていたのである。



真撰組副長が謹慎処分になったという情報を得た高杉は直ぐに鬼兵隊を動かした。元々真撰組副長の追放と実権の伊東への委譲は妖刀を提供し協力を約束したときに一緒に伊東と密約していたことだが、そんなことは関係が無い。元から高杉は真撰組自体を壊してしまおうと決めていたのである。
土方がそこにいるのなら、どんな組織であってもどれほどの困難があったとしても、高杉は壊して土方を連れ出すつもりだった。

伊東に権力が完全に移りきる前の、統制を失った真撰組は脆かった。何もかも一手に土方が握っていたのだ。指揮系統全てが正常に機能しない中、高杉は交戦自体を部下に任せて、悠々と屯所に侵入した。
見取り図であたりをつけていた副長室は、白い障子で締め切られていた。無造作に薄い障子を開いても中にいるはずの人間は反応すらしない。ぼうっと魂が抜けたかのように一振りの刀を抱えたまま、壁に背中を預けて何もない空間を見上げているだけだ。
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