隠れ家

□Doll platy(土方編)
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生垣の向こうを覗き込めば、その少年は細く開いた障子の中からこちらに気付いて本を閉じる。
その足が庭に下りたら、そこからはもう子供の時間だった。


土方の家の隣には、二つ年上の少年が住んでいた。
名前は、高杉晋助。
生まれたときからもう隣同士で、家自体そう格式ばった付き合いをしていたわけではないから、高杉が武士だということを土方は五つになるまで知らなかった。
袴の姿の高杉はそう言われて見れば外見だけは武士のおぼっちゃんだったし、泥まみれになって土方と一緒に遊んでいるところを近所の大人がぎょっとした顔で見ていたのもうなずける。

大人たちはそんなにしゃちほこばってはいなかったが、高杉の父親は高杉が武士の間での礼儀を覚えないと困ると思っていたし、土方の親は他の武士に晋助と同じよう土方が振舞って手討ちになっても困るので、それぞれ相談をして二人を少しずつ離そうととした。
本来であれば、二人ともそれぞれが住む社会の自然に気が付けばよかったのだろう。けれどよそ見していることが出来ないほど、高杉と過ごす時間が土方は楽しくて仕方がなかった。
まるでお互いがそれぞれの半身のような気がしていた。
半分ずつ繋ぎ替えて入れ替えてしまっても、きっと自分たちは何も変らないのだと理由もなく信じられるほど。

やがて高杉は寺子屋に入れられた。武士の子供たちが通うような場所だったから、寺子屋とはいっても藩校の幼年部のような場所だった。
一人で過ごす時間が多くなって、ほんの少し元気の無い土方を親は心配したが、どうしようもないことだった。
今まで高杉とばかり遊んでいたが、土方に他に友人がいないわけではない。だがどれも高杉と遊ぶより、ずっと味気ないのだ。夕陽が落ちるまで遊んでもちっとも満たされない。何かが違うような気がする。
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