隠れ家

□Doll platy(土方編)
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小石を蹴り飛ばしむくれながら帰路をのろのろと歩く背中に、声が掛けられたのはその時だった。


「十四郎?」


ひょこん、と土方は跳ね上がった。
土方を家族以外でこんな風に呼ぶのは、一人しかいなかった。
おそるおそる振り返ると、夕陽を遮って高杉が立っている。高杉だけではない。他にも高杉と同じ年頃の少年が二人、突然立ち止まった高杉をいぶかしむように様子を窺っていた。

「十四郎、今帰りか?」

久方ぶりに顔を合わせた高杉はきちんと袴をつけて、竹刀袋の先に胴着の入った袋をぶら下げている。小脇に抱えた包みは教本だろう。
きちんとした格好をした晋助は、なんだか別の人間のように見えて土方は声も無くあとずさった。
いぶかしげ高杉が名前をもう一度呼んで距離を詰める。それを後ろから見ていたいかにも行儀の良さそうな少年が、初めて口を開いた。

「高杉、知り合いか?」

はじかれたように土方はそれを聞いて駆け出していた。慌てた高杉の声が背中にぶつかったが、それを振り払い土方はそのまま駆け抜けた。
どこをどう走ったか解からない。
息を切らして座り込んだ拍子に強い香りに包まれて、土方は涙を一杯にためた眼で振り返った。

あたり一面が金色と橙色に包まれている。
金木犀である。
細やかな花が枝に連なり、しなだれるようにしてさざめいている。
それがいくつもいくつも植えられているのだ。
スン、と鼻をすすって土方はその根元に隠れるように肩を摺り寄せた。
みじめったらしくて仕方がない――――。
手の甲でこすってもこすっても、涙はこぼれるばかりで一向に止まろうとはしなかった。
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