隠れ家

□Doll Pray(Doll Play後話)
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Doll Pray 2

高杉が土方を伴い食堂に顔を出すと、一気のその場はざわめいた。
何せ少し前まで真撰組の副長をやっていた男だ。本人は思い切りネジと一緒に記憶が飛んでいるらしいが、周りはそう都合のいいことを忘れてくれない。かといって高杉の情人だということは既に知れ渡っていたので、斬りつけるわけにも行かずに精々恨みがましく殺気を飛ばすことくらいしか出来ないのだ。ひよこになっている土方はそれにも全く気が付かない。昔から気配には聡かったと思うのだが、一体いかほどネジが吹き飛んだのかと思うと頭の痛い高杉だ。せめて自分の身くらいは護れるようになってほしいが、このままならいっそひよこをやらせておいたほうが安全かもしれない。

「ここが社員食堂か?人が多いんだな」
「…まァな」

なんだかおかしい単語が出てきたような気がするが、そのあたりはあまり突っ込まないことにする高杉だ。
土方の思考回路は高杉にはまだ完全には解読できない。
一寸いじめすぎたか、とあの妖刀の効果を計り間違えた自分を恨むばかりだ。

「万斉、メシ」

横柄に命令する高杉にもすっかりと慣れたもので、万斉は首を竦めると無言でトレイを持って戻ってくると、一方を土方の前に置いた。いいのか、という目に頷けば、生意気ではあるがありがとうはちゃんと言えるらしい。
パキリ、と土方は箸を持ってしばらく硬直した。
じいっと自分を見ている目がある。ほとんどの人間に注視されているようなものだが、至近距離から恨みがましい目で睨まれれば気にもなるというものだ。油の切れたブリキ人形のような動作で振り返る。先刻直ぐ横に座った女はにこりともせずに、土方を見ていた。
高杉が面倒臭そうな声を出してたしなめる。

「また子、威嚇すんじゃねェ。十四郎が怯えるじゃねェか」
「晋助様…」

しぶしぶとまた子は舌打って視線を土方から反らした。蛇に睨まれた蛙状態であった土方はようやく肩の力を抜く。なんだか良く分からないが、どうもこの人は苦手だと土方は認識したようだった。そっと椅子をずらしてまた子から一寸離れたその前に、万斉は厨房に引き返してもらってきたものを手渡した。
それを見た途端、警戒していた土方はぱあっと顔を輝かせる。
黄色いチューブをうきうきと受け取る土方に周囲はぽかんとしている。写真でもいつもしかめっつらの真撰組副長がこんなにも屈託もなく笑ったところなど見たことがなかったらしい。
だがそのぽかんとした顔は、土方がチューブを逆さまにした途端に真っ青になった。
何の遠慮もなく、ぐいっとチューブの腹を押して――――瞬く間に勢いよく吹き出したマヨネーズの下に定食は埋まってしまっていた。ほかほか湯気を立てていた白飯も、小鉢も焼き魚も元の姿が見えないほどである。
周囲が塩の柱のように硬直するのにも気にせずに、土方は嬉々として箸をつけようとして――――横から膳を掻っ攫われた。
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