隠れ家

□ツンデレ参謀
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何故あの男と、付き合うことになったのか。
土方はそあたりを覚えていない。
一番大事なことだと思うのだが、覚えていないものは覚えていないのだ。
ただなにやら伊東がやたら赤くなっていたことと、それから翌日には普通どおりだったことくらいしか、おぼろげにしか記憶には残っていない。
伊東とは付き合いだしてから即座に熟年夫婦のような関係になった。何しろ伊東は入隊してから幾許もなく外回りに飛び回る羽目になったし、土方は実戦や書類のことでこちらも多忙だったものだからなかなか顔を合わせる機会もなかったのだ。
やることはやったのだが、何かが違うような気がする、といつも土方は違和感を抱えていた。伊東もとりたてて何も言わないのだから、彼はなんとも思っていなかったのかもしれないが。

恋をする、というのはどういうことだっただろうか。

男同士の恋愛というものが初めてだった土方には良くは分からないが、伊東との関係は今まで付き合ってきた女たちとは何もかもが違った。

まず甘さが欠片もない。
顔を合わせても口論か仕事の話ばかりでおおよそ付き合っている人間同士の会話とも思えない。そのため当然ながら接触も次第に少なくなる。前にキスをしたのがいつだったか、土方は覚えていない。セックスなんてもっとだ。伊東が入隊してやっと一年やそこらなのだからそう遠い昔ではないのだが、思い出すこと自体を脳が拒否しているのかもしれなかった。
とにかく伊東は口を開けば小言と嘲笑、何から何までどんな点でも土方を見下そうとする上に気障ったらしくてやっていられない。どこの熟年府離婚予備軍夫婦だ、と自分でも思いたくなる土方だ。
今伊東にあらためて告白されても答えはノーであろう。
そもそも伊東が告白をしてこの関係が始まったのだったか。
いくら羽目を外しまくったとしても土方は男と付き合う趣味はないから伊東が告白したのだろう。何故その時に断っておかなかったのかといえば、伊東が未だその時は入隊したてで土方に猫を被っていたから、だろうとしか想像も出来ない。因みにその猫は土方以外にはまだ被られている。外面だけは異常なまでにいい伊東にすっかりと近藤は騙されてしまっているから、土方がたまに愚痴れば逆に諭されてしまうのだ。おかげで土方の鬱憤は吐け口を見つけられずに溜まり放題である。
大体土方はマゾヒストではないのだから、冷たくされたって嬉しくもなんともない。コンプレックスを取り立てて抱えているとは思っていないが、僕は君たち田舎道場の浅学の徒ではないんだと言わんばかりの(これでも大分、ソフトな表現である)伊東の話し方はとにかく鼻についた。
あの口調。それと見下すばかりの視線。少し吊り上げられた口元といい、どれを取っても土方には腹立たしくて嫌味にしか聞こえない。
しかもそれをやるのがあからさまに土方にだけなものだからますます腹が立つのである。
おかげで皆、土方の言うことは信じようとしない。日頃の自分の態度も原因の一つだと知っていながらも、矢張り苛立たしくて仕様のない土方である。
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