隠れ家

□Melancholischer Vogel
1ページ/5ページ

+++   Melancholischer Vogel  +++


鬼兵隊が動くらしい、と聞いたのは、夏の始まりのころだった。

人斬り騒ぎで江戸では警察がやっきになっている。
その最中、押し寄せる仕事から抜け出した土方は、料亭というには小さな店の離れに座っていた。
仕事も溜まっているし、警察との協議も押し迫っている中で、やっとのことで時間を作って抜け出してきたのである。そういえば最近、ろくに眠っていないことに腰を下ろしてから、一瞬視界がぐらついて土方は気が付いた。今突然死でもしたら、確実に過労認定が降りるだろう。
そんなところまで土方は追い詰められている。

人斬りの正体は中々掴めなかった。

何しろことごとく斬られた人間は死んでいるので、手掛かりが無い。攘夷派、それも武市が関わっているとい情報はあるが、確実な証拠が無かった。
武市といえば、高杉の鬼兵隊の幹部である。土方は武市が参入した頃にはもう真撰組に入っていたので、直接的な面識は無い。
高杉絡みか、と呟けば、胸腔のうちで水溜りに小石が投げ込まれたように、波紋が出来ては波立って、いくつも同心円を重ねたような気がした。

高杉は、自由だ。
誰にも制御などされない。誰もあの男の首に鎖をつけることは出来ない。
そう土方は分かっている。
あの男の頭の中には、常人には理解できないような高温の熱が篭っている。濃縮されるほどその熱は高温になり、完全に密封されるがゆえに、外側は不気味なほどの沈黙を保っているのだ。

――――それが、爆ぜるのか。

そんな予感が、した、。
同時にふっと、気分がまた重く沈んでいくのを土方は感じていた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ