隠れ家

□Eifersucht auf einen Vogel
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「警察の方から話しは聞いてる」
「…じゃあおめーは、他に何を聞きたいわけ」

玄関脇の壁に体の半分をもたれさせていてる男の頬に、血の気は薄い。甚平の袷から除く胸元にぐるぐると幾重にも巻かれた包帯に、派手にやられたものだと心中土方は呟きつつ、掠れるような声で言った。

「俺は確認してェだけだ…白夜叉」

ひくり、と銀時の頬が一瞬動いたのを土方は間近で眺めた。
この男の、昔の二つ名だ。高杉と共に、銀時が天人を相手に戦っていたころの名前であった。
銀時が白夜叉であるということは公には知られていない。白夜叉の名前は既に伝説になっている。その素性はもちろん、功績だけは爆発的に後付されているが、実際には攘夷戦争末期に行方不明になったことくらいしか知られてはいない。その武勇伝が半ば一人歩きをしたため、そのあまりの荒唐無稽さに白夜叉は実在しなかったのではないかというものまでいるのだ。
ある意味では、白夜叉は戦争後の鬱憤が作り出した都市伝説と化しているようなところがある。
警察もまた、白夜叉の正体は掴んではいない。
既に攘夷活動から手を引いているためか、それとも死んだとでも思っているのだろうか。知っていれば銀時は、病院で拘束されていただろう。

銀時は目を細めて、土方のおもてを見やった。
何を考えているのか、と言いたげ目をしていた。

「…おたくの監察って、意外に優秀なんだね」
「伊達にミントンばっかりやってるわけじゃねェんだよ」

先刻靴底でにじりつぶしてしまったばかりだというのに、無性に煙草が吸いたくなって、土方は無意識に胸ポケットを探ろうと途中まで持ち上げられた指を止める。何をやっているのだろう、という自嘲にも似た苦笑は、銀時にはどう映ったのだろう。

(本当に――――何やっていんだ)

土方は自嘲をひっそりと深めた。こんなところまできて、重傷の怪我人を相手に。
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