隠れ家

□リセット・ザ・ワールド
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『リセット・ザ・ワールド』

眼前にちょこんと置かれた小さな箱に、横文字でそう書いてある。
箱自体は何の変哲もない、ただの手のひらサイズの小箱だ。高さだけが低く、ほぼ正方形をしている。その上部に赤いボタンが取り付けられていて、そこに「リセット・ザ・ワールド」。そう書いてある。
土方は文机の上に、その小さな箱を置いて、数十分間考えているのであった。
手のかかる一番隊隊長がひょこりと副長室を訪れて、押し付けていったのがこの箱である。
横文字は読めない土方が、これは何だと聞くと、何もかもリセットさせてくれる魔法のようなもんでさァ、と沖田はなんでもないような顔で言ったのだった。

「リセットって…こんな小せェ箱でか?」
「天人の文明ってのは凄いですねィ。とんでもないものまで作り出しちまう。ボタン一個で人生やり直せるんですぜ」

訝しげに箱を見下ろす土方を見やって、沖田はふと滅沙にないような真摯な目をして、こう付け足したのだった。

「土方さんには、やり直したいことはないんですかィ」

ない、といえば嘘になる。

沖田は土方が口を開く前に、さっさと立ち上ると見回りに行ってきやすと出て行ってしまった。
何のために沖田がこんなものを土方のところに持ってきたのか、といぶかしむ土方だ。
つまりはこれで、土方にやり直せ、ということなのだろうか。

確かに土方には、悩みがあった。
それをあの聡い弟分に見抜かれているかもしれないという危惧もまた抱いていた。
土方を真撰組副長から引きずり下ろすのに十分なだけのその悩みを沖田が利用しないのは、それが発覚したら最後、真撰組ごと全てが吹っ飛んでしまう、そんな悩みだったからだ。
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