+++インソムニア+++
□不穏の夜
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副長の機嫌が此の頃頓に悪い。
首をかしげていると、通りかかった沖田隊長が
「五日目」
と、ぼそりと呟いて去っていった。
ああ、と手を打つまねをする。土方副長の徹夜はここしばらく記録更新中だったようだ。
+++不穏の夜+++
土方副長はインソムニアである。
不眠症だ。
普段から眠りの浅いその人は、しょっちゅう断眠を繰り返しているから通常でも常人の半分くらいしか眠っていない。それがふとしたきっかけでなのか、周期的になのか、ある日突然眠れなくなる。
人間には生きていくのに絶対に必要、というものがあって、食事と水と睡眠だ。とりあえずこれがあればなんとかなるというのに、あの人はその中のひとつが常に欠乏している。
そのことを知っている人間は実は少ない。それはあのひとが悟らせないからで、昔の道場仲間たちもほとんど知らない。
かくいう俺がそのことを知ったのは、たまたま夜勤の時に、つきっぱなしになっている副長室の明かりに気がついたからだった。
「山崎ぃ、報告書早く出せっつってんだろうが!!」
ぼんやりしていたら怒声が背中にぶつかって、つい俺は実態も無い空気の振動に多々良を踏んでしまった。あのひとの声にはいつも迫力がある(時に無くてもいいのに、と思うが)。それがいつもより三十パーセント増量お徳サイズなのは、やはり不眠の影響なのだろう。
はいよ、といつものように返事をしたら、なんだその返事はっ!!と障子がびりびりと震えるような声になった。首をすくめて書いたばかりの紙を墨がにじまないように丁寧に捧げもって、あのひとの部屋に向かい歩き出した。