+++インソムニア+++

□不穏の夜
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どうして眠れないのか、聞いたことは無い。

あのひとに限って欝だとかそういうことは関係ないだろうし(悩むより先に手が出てるもんな、被害は特に俺に集中してるんだけど。)、夢見が悪いから、なんて子供のようなものでもないだろう(だってあのひと規定の二倍以上薬飲んでるんだ。夢も見ないくらい深く眠れるように。副長の机漁って観察記録つけたことがあるなんて命が惜しくて言えないけど)。

それ以外にも理由を考えたが、どうもしっくりくるようなことは無い。首をかしげかしげ障子を弾き開けて、失礼しますと声を掛けると机に向かっていた首だけをこちらに向けて、あのひとはぎろりと眼光鋭い視線をくれた。

「おせぇんだよ、廊下の移動に何分かけてやがる」

ついと唇から離した煙草に銀の線が延びるのに視線を奪われる。
このひとはいちいち仕種が艶っぽい。普段はそうでもないのに、不眠期間だと教えられてからはそういった、どことなく気だるい仕種を視線が勝手に追っている。

うん、確かに不眠期間中だ。

だって目つきが普段の三十パーセントお徳に増量しているし。
うっすらと隈が目じりに浮かんでるし。
しかし、どうして気がつかなかったんだろう。隠し方にも年季が入ってきているのかな。
そんなところばっかり誤魔化せるようになってどうするんだよ。そんな努力してる暇があったらさっさと布団這入れよ。
ああ、言いたいことは山ほど有るのに口から出てくるのは、報告書、遅くなってすんません、それだけだ。(その報告書だって決して遅くは無いのだけれど!)

チッ、と短く舌打ちして、副長は俺からひったくるようにして受け取った(受け取ったっていうのかな?)報告書を机の上に放り出して、一瞬でも惜しいなんていうように再び煙草を咥えなおしてしまった。

あんたそれ、そのニコチンがまずいんじゃないのかな。カフェインとかと一緒で脳が起きちまうんじゃないのかな。あんたただでさえ煙草の量増えてるのにこのごろ灰皿はいっつも山のようになっている。
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