+++インソムニア+++

□てのひら。
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この人が俺に対して優しいのは惰性と同情であることを自覚しているのだ。
それでもその手のひらがあまり温かいので今までその誘惑を振り払えたことは無い。

それどころか、暇さえあればじゃれついている始末。末期だ。思い浮かべて緩んだ唇が笑った。


+++美しい日々+++


山崎が頑張っていると思ったらそれは土方さんのためだったらしい。
昨日入った監察方からの情報により、俺たち真選組は今何人かに分散してある旅館を狙っている。
Hotel IKEDAYAとは違う、木造二階建ての質素なものだ。
都内のビジネスホテルでは顔が知られている手配犯たちはなかなか利用できないから、こういうすこし寂れた感じの旅館は都合がいい。
こっちもそれは同じ事で、テロリスト以外の宿泊客が少ないと面倒も少なくていい。

土方さんと俺は旅館の支配人を先に押さえて奴らの居る二階部分にいたる階段全部と目当ての部屋が面した庭部分に隊士を配置させた。後は一般客の避難を待って突っ込むだけだ。

それ以前に気が付かれたら問答無用の乱戦になるわけで、そうなったら巻き込まれた客は不幸だったと諦めてもらうしかない。
真選組のやりかたは案外そういういい加減なものだ。
武装警察に人質優先とか言われても困る。土方さんは苛苛と時計を見ながら携帯灰皿に五本目の煙草を押し付けた。普段から開き気味の瞳孔はいよいよ開いていて、俺はこの人がこのまま興奮と昂揚の前触れだけで昇天してしまうのではないかと心配になる。
耳が痛くなるような張り詰めた緊張がその人の全身から噴出していて、それでも殺気は抑えている。視線を潜り抜けた人間は気配に鋭敏だ。それでなくとも、この今にもコロリとイッちまうのではないかと心配するような目だけで敵は十分ひるむだろう。

この人の目に勝てる人間なんてそう居ない。俺は土方さんとは違う理由で昇天してしまうのではないかと思う。ああ、誰も俺がまともだなんて思っていないだろうけど、こういうところが駄目なのかな。
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