+++インソムニア+++
□いけ好かない男
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どうしてこういう状況になっているのか、土方は床に背中を押し付けられながら目をこすってみた。
理解しきれない。
ここは自宅のはずである。
天井は見慣れたものだし、少し生地のだれかけてきた薄青い色のソファはドラマの再放送を見る定位置だ。
足が引っかかっているガラステーブルにはこの時間帯、いつもならビールの一本とつまみが並んで風呂上りの自分を待っているはずだ。けれどそこに転がっていたのは、普段なら全く食べないチョコレート菓子の包み紙で、それを食した男は口元に茶色い汚れをくっつけたまま何故か今自分の上にいる。
何だこの状況は。
目をこすって再び見た世界は夢ではなかったので当然なんら変動することはなく、やっぱり理解できないままだった。
無理もない。
誰だって仕事から帰ってきて上着を脱いだ途端にこういう体勢にされればそう思うだろう。
「お帰り」
それでもこの上にのっかかっている男といったら、体勢に似合わないごく普通の言葉を吐くものだからますます土方は混乱した。
何故この銀色の髪をした男はこんなにも殺気立っているのだろうか。そんなことを疲弊した脳で考える。今日は沢山仕事をしたから、さっさと眠ってしまいたいのだけれど。
+++いけ好かない男+++
「……退け」
効き目は無いだろうな、と思いながらも言ってみる。後で制止したと主張しておかないと大変なことになりそうだったので。
矢張り効き目はないようだった。何故か土方の家に侵入していた万事屋は、ぺたぺたと子供が珍しいものを触るような手つきでそこここに触れてくる。
どうしてお前がここにいるんだ、と聞いたら鍵が開いてたから、と言う。塀を越えたら障子しか遮るものが無い純日本建築の家屋に、玄関以外に鍵なんて有るわけが無い。