+++インソムニア+++

□いけ好かない男
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「お前は鍵が開いてれば他人様の家に勝手に上がりこむのか!!」
「他人じゃないし」
「知り合いになったつもりも無いわァアア!!」
「じゃあお友達から始めよう。で、今からちょっと順序ふっとばすから」

言われた瞬間神経の端がちり、と燃えるような感覚を持つ。引き連れるような感触と同時に熱まであって、ようやく土方は銀時の手がシャツの内側に侵入してきたのを知った。今日は感覚がひどく鈍っている。オイ、と声をかけて人の肌を触りたくっている腕を押しやるとかるくはたかれた。

叱られるのはお前の方じゃねぇか。

声を荒げても矢張り反応は無い。ごそごそと侵入してくる手が腹部まで下がった。その部分に触れられただけで筋肉が緊張する。

青黒くなっているはずだ。

土方の眉間に皺が寄ったのを知って、銀時は唇を引き結ぶと一気に腕を左右に開く。ぶちりと大きな音を立ててボタンが弾ける。ガラステーブルに当たって跳ね返った一つがすぐ頭の横で、独楽のようにくるりと回って倒れこんだ。

蛍光灯の遠慮の無い光に晒されて、生々しい青黒い打撲痕が肌の白とコントラストを描く。

昼間高杉とやりあった時に付けられた傷だった。

切り結んで均衡したところを足でかすめるようにわき腹に一撃。
その後ゆらいだところにみぞおちに重い一発をもらって、壁に体を叩きつけられた。

どうしてあのとき殺されなかったのか、今でも分からない。そのまま首を撥ねるなり袈裟に切り下ろすなりすれば今頃土方は屯所で焼香でも上げられていたかもしれない。

単なる戯れだったのだろうか、取り巻き候と周囲にいた男たち五人を斬ったというのに、感情の読めない目は怒りを表すどころかキスまでしてきた。何故だ。


思考が読めない。


「どうしたの、これ」

執拗に腹部を撫でている男の口調が棘を持っている。

お前が殴られたわけでもないだろう。そう言ってやりたかったが、言ったら何をされるか分からないような雰囲気を銀時が漂わせていたものだから黙って抵抗することにする。
思考が読めないのはこの男も同じだ。
上体を起こして腕だけで後ずさりをするが、ひざの関節の上にあいてが腰を下ろしているものだから痛いだけだ。

足は全く抜けない。
さっさと風呂に入って眠ってしまいたいのに。

―――今日は沢山仕事をしたから。
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