+++インソムニア+++

□何処まで。
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眩暈がして視界が歪んだ。

ただでさえうねっている木目がかすんで判別も出来ない。
思考回路はぐるぐるとループを描いて、螺旋を形成しては下へ下へと墜ちて行く。


どこまで。

煉獄を突き抜けたらどこに出る。骨も残してもらえないだろうか。それでも腹の底でうねる感情が叫んでいる。こんなところで休んでいる自分に焦りがある。

―――どこまで走れる。


+++何処まで+++


目が覚めたら足の感覚が無かった。
もぎ取られたのかと思って土方は僅かの間硬直した。

完全に無いわけではないが、動くのが辛い。普段使わない筋肉を使ったからなのだろうか。酷い倦怠感が体全体を支配して、頭をもたげるのすら億劫だ。
全く酷い状態で、仕方ないので起こしに来た近藤に一日休みをもらった。

あの水を浴びた後、そのまま倒れこむようにして眠ってしまったのがいけなかったのだろう。
土方はゆるく瞼を半分だけ落として、現実と過去の境界を、目を眇めるようにして見た。
喉が痛い。発熱もしているらしい。先刻水差しを持ってきた山崎が解熱剤を置いていった。ウィルス性かは分からないが、タチの悪いものではないだろうと勝手に判断して喉にへばりつく粉薬を飲み込んだ。飲み込めない喉が噎せて酷く陰鬱な気分になった。オブラートを持ってこさせれば良かったと思った。

八つ当たりに用意していなかった不備を詰る元気も無い。人に会うのが酷くつらい。多少なりとも気を使わなくては成らないから神経のほうが削れる。
薄ぼんやりとした視界で、土方は

(総悟に言ったらばかにされるだろうな)

と思った。
隊士の中で自分は他人に対して気を使うような人間でないと認識されているらしいので。
実際そういう気づかいとは無縁とはいえないが縁遠いのは確かだ。
けれど余計なものまで抱え込んでいる現在、人の目にさらされるというのがどれだけ重いことなのか、うっそりと熱い息を履いて土方は自覚をした。
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