+++インソムニア+++
□何処まで。
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布団の中で丸まっているはずなのに宙に浮かんでいる気がする。
あの薬の副作用なのかもしれなかった。
山崎が薬と一緒に持ってきた体温計は39度をさしていて、土方は見なかったことにした。
明け方に一度無理やり起き上がって濡れて汚れた着物の始末をした。
畳が濡れたのは誤魔化せないので上から布団を敷いてしまった。
誰にも知られては居ない。そう思うと安堵すると共に無性に叫びだしたい衝動が肺の辺りでとぐろを巻いた。
叫んで吐き出してしまいたかった。この体内にあるもの総てを一つ残らず。
近藤が珍しく隣室にいた。
仕事をやっているようだった。元々そこは近藤の居室だが、普段はストーキングにかまけて留守にしていることが多い。土方が臥せっているからだろう。
一刻に一度は薄い襖を開いて確認してくる。熱はどうだ、とか何か欲しいものはないか、とか小さな子供に言うように聞いてくる。
あのごつごつとした大きな手のひらで土方の額を覆って熱を測ろうとする度に
「いい、子供じゃねぇんだ。あんたに感染ったらどうする」
そう邪険に手を払いのけて苦笑された。昔道場で不遇を囲っていたころに土方が流行り風邪で倒れたときも確かこんな風に一日中隣の部屋で様子を見ていた。隣にへばりつくのは、やはり今と同じよう土方が止めていたのだが。
けれど意味がないくらい何度も訪れては具合を尋ねるのだ。
近藤は変わっていない。
何一つ、どんな立場になったとしても変わらない、そういう人だと知っている。道場主だった頃も、真選組の局長として座す今も、根の部分にあるのはいつも同じだ。
だから縋りたい。
そう思うのだろう。よりどころにしたい。すべてぶちまけてしまいたい。朦朧と歪んだ意識の下でそんなことを思った。あの大きな手なら、許してくれるのだろうかと。