+++インソムニア+++
□二重の鎧
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医者を呼ぶといった近藤に沖田が止めといた方が良くありませんかィ、と言ったのは、あまりに酷い状態の土方にはばかってだった。
ちょっとした痕跡から何を想像されるか分からない。
精神的な危険の占める割合のほうが多いと思っていたけれど、真っ白な顔でもどすものも無いのにまだ胃液を吐き出し続ける姿に思うよりも体も追い詰められていることを知った。
人の体は精神と密接な関連を持っている。
思い込みひとつで軽い胃潰瘍が胃癌に変わるという事例もあるらしい。
この精神だけは並外れてよくも悪くも頑強な人が、何故ここまで追い詰められねばならないのか、噛んだ唇は色を失った。
近藤が近くにいるのは、諸刃の剣のように事情を知った沖田には思えたが、うまく理由をつけて引き剥がすことは出来なかった。
ただ自分に出来るのは、既に症例が出てしまった現在、何にもまして原因を消去することだけである。
既に判明している原因を。
「…山崎ィ、繰り上げるぞ」
呆然と土方と近藤の姿を見ていた山崎の顔がたちまち硬直した。
本当ならもっと慎重に手はずを整えるはずだった。
山崎の調べでは、他にも三・四人がいるらしい。
だが今回はひとりでいい。他の男はひとりの死で意味を知るだろう。本当は根こそぎ踏み倒してやりたかったけれど、張り切ってやりすぎると証拠を残しやすくなる。土方が守ろうとしたものを、傷つけるわけにはいかなかった。
沖田はゆるりと頭を振る。
色を失った頬に血の気がさしてうすらと赤くなった。
昨夜からそのことをずっと考えている。
人を殺すことばかり考えるというのは、奇妙で滑稽なことだった。