+++インソムニア+++

□次の波
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ひたひたと足元を浸していく水がある。

さっきちっともおとなしくしていない水面に触れてみた手のひらはもう乾いていて、合わせると少しべたついていた。
舐めたらきっと塩辛いのだ。ぼんやりと当たり前のことを考える。馬鹿らしいので実行はしない。

足の下の砂が流されていく。弱い力のはずなのに引きずられそうになる。

暗い水平に引っ張られてたらどこに流れ着くのだろう。その向こうにあるものを想像しようとしてついに叶わなかった。少年らしい憧憬はもう思い浮かべられない。

 呆っとしている間に次の波が来る。

 また足下の砂が削り取られて声もなく泣いた。


+++ 次の波+++


 海岸に怪物が出たという報告を聞いて一番張り切ったのは矢張りといおうか、沖田だった。
不法侵入または検疫前に脱走した他星の生物なら入国管理局の責任だ。回収も、前回大騒ぎになったような巨大生物でなければある程度なら可能のはずである。

なら自分たちが出動する理由はないわけで、むしろ相手方の不興を買うだけだ。確かにあちらは前回の騒動でゴタゴタしているわけだが、公的機関という奴はプライドばかり高い。自分たちとは成立した過程も違う―――。

近藤を誘い出そうと口先三寸でもっともらしいことを吹き込んでいる沖田を横目で見ながら土方はめぐった思考を頭を一振りしてどこかに放ってしまう。口に出せない。聞いたとたん馬鹿が付くほど真っ直ぐな近藤が、人生の一大事だというような顔をして

「トシ、それはいけねぇぞ」

 というに決まっているのだ。そうしたら自分たちはわざわざ海辺へ繰り出すことになり、仕事はきっと片付かない。土方は軽い頭痛を覚えて大きく息を吐いた。あまりに大きな溜息だったので煙草が口からこぼれかけ、報告書を持ってきた山崎が意味もなくオロオロした。別に直ぐ燃え移るわけではないのだから、落ちても構わないだろうに。
そんなことを考えたらまた溜息が出そうになる。
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