+++インソムニア+++

□次の波
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夏は嫌いではないが、こうも暑いと神経がイカレる。
ロッカー仕様が羨ましいわけではないが。

 確実な未来予知に頭痛を覚えた土方の横で近藤は既に沖田に説得されかかっている。ちくりと再びこめかみがうずいて土方はことさらゆっくり煙を吐き出す。

ちらりと沖田がこちらを見てにこりと笑うのが視界の端でまたたく。それが珍しく毒気も謀にも無縁のようであったから、土方は文句を飲み込むことにした。

 誰も彼も休みのひとつでもなければやっていられないような、暑い季節の半ばだった。

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たとえ遊びに来たという事実が明らかであっても建前というものは必要で、土方はいつもの隊服の上着を脱いだだけの状態である。
足元の砂は軽く、一歩歩くたびにしゃらしゃらと鳴いた。遠くで波頭が立っているのが見える。

この服装でなければ夏も海も嫌いではない。

屯所を出たのが昼過ぎだったので到着は夕方近くになった。
既に空は茜を通り越して藍を滲ませている。海も既に青ではない。調査は明日ですねィ、と言った沖田が先刻海の家の親父に事の顛末を聞いていたのを土方は見ていたがあまりに近藤が嬉しそうにしていたから黙っておくことにする。

このごろ口を噤む事が多いな、と思った。

 宿の手配を任せられたのは山崎だ。しかも騒ぎの後にやってきた客が大勢居るというので二部屋が取れなかったという。

公的権力を使ってもいいんじゃないかと思いもしたがとてもではないがそういう気にはなれなかった。もともと道場で雑魚寝をしていたものだから他人の気配には馴れている。さっさと土方は相部屋を引き受けた。

沖田と眠るよりは安全だろう。近藤が居る場所で仕掛けてくるかは分からなかったが、近藤ほどごまかしやすい人間も居ない。何かあったら斬ってしまえばいい。
スペアキーを渡されて、突然こんな目つきの悪い男と相部屋にされた相手の不幸を哀れんだ。
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