+++インソムニア+++
□帰る場所。
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+++残+++
「―――こんどうさん。」
こちらを見た真っ赤になっている目が以外にも冷静さを失っていないと思ったら、それは間違いだったようだ。
裏路地から昔良く嗅いだ匂いが漂ってきたものだから、バイクを止めて正解だった。
地面と仲良く仕掛けている血まみれの人間には見覚えが此れでもかというほどあって。
自分の直感に感謝する。
手早く傷口を探したら結構深いのが三箇所もあった。
これでどこからか、すぐ前まで自力で歩いてきていたらしいから感心する。
緩慢な足取りの背後にはべったりと赤い足跡とただ事でない血痕が続いていた。並の人間ならとっくの昔に失血死している。
それでもまだその男が片方の腕だけで前に進もうとするものだから、観察より先に病院だろうと自分も完全に正気を保ててはいなかったことを知った。
「―――オイ、土方…!」
腕を取る。不思議そうに見上げてきた目は先刻人を刻んできただろうというのに子供のようなそれだった。
しっかりしろ、と頬を軽く叩いた手に、とろ、と瞼を下げてすりついてくる。
冷静なんてどうして思ったのだろう。
全くもって冷静などではなかったのだ。
もう意識が半分も保てて居ない。
なぜなら、自分とあのゴリラを、土方が間違えるはずが無い。
「―――こんどうさん。」
荒い呼吸の下からやっとのことで吐き出された声はひどく掠れていた。それでも土方が誰を呼んだのかは分かる。銀時は唇を噛み締めた。
絆。
分かっている。だから土方は、目を瞑ったほうが楽な状態であるというのに生きようとするのだ。
「……少し、寝てろよ」
届かないことも知っている。けれどこの際そういうことはどうでも良かった。ぐったりとした体を抱えてバイクに飛び乗る。急患を受け入れている病院はどこにある。
ずりおちそうになる安定の悪いからだは体温が落ちかけていて、余計に焦った。白い着流しが真っ赤になる。明日包帯でぐるぐる巻きにされた男にクリーニング代を請求してやる。
自分のために生きられない人間は嫌いだ。
昔を思い出す。
助けられなかった自分を思い出す。
けれどこの男にはどうしても嫌いにはなれなかったから。
「…お前だけは、死なせねぇ」
残される。
一人になる。
そんな想いだけは、もう沢山なのだ。